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「北京から見る日中翻訳業界」 第10回 「老師と先生」


5月のことですが、北京では「北京日本人会」が主宰する蒼井そらさんの講演会が開催されました。場所は北京の長富宮飯店(ホテルニューオータニ)にて、日本人会会員向けのイベントではありましたが、中国人に言わせると「さすが日本人、(中国人なら)ちょっと出来ない、というか思いつかないことをやるね」ってことでした。

Wikipediaによると蒼井そらさんの紹介は「AV女優、女優、タレント、歌手である」とされていて、現状ではかなりマルチな活動をされており、AV引退説なども流れたりしたようですが、上記の講演会では「私はいつでも脱ぎますよ。ただ中国では許可してもらえないんですよね」なんて話されていたそうです。

さて、なぜ中国で蒼井そらさんかというと、ご存知の方も多いとは思いますが、彼女は実は中国で「老師」と呼ばれるほど人気で、また尊敬もされていて、中国のマイクロブログには1500万人ものフォロワーがついているのです。ブログには中国語でつぶやかれていて、間違いやたどたどしい表現も多いそうですが、ファンにとっては小さなミスもむしろ好ましく映るのでしょうね。このように人気者の蒼井そらさんですが肩書は上記のとおりですから、中国人の感覚からしてみれば、日本人会のような公的機関が企画する行事としてはかなり意外に感じられたようです。

そんな彼女につけられた敬称である「老師」について、このブログの読者なら説明は不要と思いますが、日本語では「先生」のことです。ちなみに中国ではフリーランスの翻訳者への敬称にも、「○○老師」とするのが業界の流儀になっています。蒼井そらさんが何の先生なのかは別として、まぁそのように尊敬され、そして愛されているわけですね。

今回もう少しお話したいのが、この敬称についてです。例えば日本で弁護士の先生への敬称なら「○○先生」っていうのが普通ですが、中国では「○○律師(弁護士)」っていうのが一般的です。この場合は日本語の「先生」が中国語の「老師」には対応しませんよね。老師といえばカンフードラマを思い出す人も多いと思いますが、ああいうのに出てくるお年寄りの達人はむしろ「師父」であって、ジャッキー・チェンとか習う方は「弟子」になり、「老師(先生)と学生(生徒)」とはちょっとニュアンスが変わります。

「先生」という敬称は中国の日常生活でもよく耳にするもので、たとえば道を聞く時やレストランで店員が客に呼びかける際などにも使えますが、もちろんこれは男性に対してです。女性に対しては年齢に応じて変わることも多くなったようですが、若い女性なら(あるいは若く思われたい女性には)「小姐」とか「姑娘」とか呼びかけることも多いようです。街の食堂などで店員を呼ぶ時は「服務員!」と叫ぶか、上品なレストランなら「ニイハオ」って手を上げるのが今風です。

さて、翻訳のお話です。小説や漫画でカフェの席についたばかりの清楚な若い女性がいるワンシーン、イケメンの中国人ウェイターが彼女に「姑娘」と声をかけました。さて、日本語に訳する場合、カフェのウェイターが客に対して「お嬢様」と声をかけるシーンを想像できるでしょうか?日本のカフェなら「お客様」って声をかけるのが普通だろうと思いますが、もっといいのを思いつく方がおられたら教えてもらえると嬉しいです。

もう1つ、もし中国にAV女優出身のアイドルが今後売れっ子になったとして、蒼井そらさんのように「○○老師」とか呼ばれるようになったとしたら、この方を日本語で紹介するにはどういう日本語がいいでしょうか。「蒼井そら老師」って日本語でも通じるけど、私の感性では非常に野暮ったく聞こえます。彼女の華やかな雰囲気なら「カリスマアイドル蒼井そら」とか、「愛のマイスター蒼井そら」とか―――ダサい?―――そう思った方はご自身の想像力の翼を多いにはためかせて、もっと良いものを考えてみてくださいませ。

 
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「北京から見る日中翻訳業界」 第9回 「中国医学と陰陽五行と翻訳の話」


唐突ですが中国の伝統文化の奥深さとコンピューター技術の発展から、IT翻訳にこじつけるのが今回のお題でございます。

さて、漢方薬の煎じ方も知らない世代が増えている中国ですが、それでも大きな病院には西洋医学と中国医学の両方のお医者さんがいて、それぞれのアプローチで診察し、薬を処方してくれます。ここでいう漢方薬とは何種類もの生薬を組み合わせて処方されるもので、中国では「中薬」と呼ばれます。日本の薬局で漢方薬を買えば、一般的には効果が遅いが身体にやさしいとか、副作用がないなどという認識を持たれがちでもありますが、中国で中薬と言えば毒も含みます。毒をもって毒を制すとは中医から来た言葉であり、その場合は健康な人が飲んでも身体を壊すだけで、これは副作用ではなく正しい作用の生薬を、誤って使用しただけのことであります。

中国医学とは「患者の状況」に応じた治療を行うことであり、風邪にはこの薬、下痢にはこの薬というレベルではなく、患者は年齢が何歳で、慢性的に身体の状況がどのようになっていて、生活リズムや精神状況や場合によっては家族構成や生年月日などまで総合的に判断して決定するものであり、ですからその意味において、日本のドラッグストア(病院の処方箋を売る薬店を除く)で売っている漢方薬と中国の「中薬」は意味が異なる、はずなんですが、中国でも最近は薬局の薬を指して、これは中薬だから副作用ないなんていう中国人がおられます。言葉はいきもの、ってことかもしれません。

さておき、中医が判断する材料として主なものは、舌や指先、顔色などを見ること、声や息遣いなどを聞くこと、脈や腹部を押した感触、本人や家族の病歴や既往症、生活状況などの問診で、ここに陰陽五行の理論が応用されます。陰陽五行とは陰と陽、五つの性質すなわち「木」「火」「土」「金」「水」であり、これが身体においては「肝」「心」「脾」「肺」「腎」に相当します。これらには相生相克の関係があり、相生関係として、木は火を生み、火は土を耕し、土は金を育みますが、相克関係が同時に存在し、土から生まれた金は木を切り倒すが、火に溶かされもするものだということです。

この原理に基づけば、心臓が弱っているなら肝臓からの流れを通してやればよく(相生)、また水の気による制御を避ければいい(相克)という考え方ができます。身体の一部を切除したり、一部を保養したりするということではなく、いかに全身のバランスと気脈の流れを整えるかということが中国医学の考え方であり、そのためには家族環境や食生活、ひいては生年月日時による四柱推命まで行う医者が珍しくありません。

四柱推命とは中国語では八字と呼び、これは生まれた年月日時から求められる符号の組み合わせになります。八字と言われる所以は、この符号が膨大な種類のなかから8つの組み合わせとして算出されることにあります。そして、その組み合わせから、この八字の持ち主はどのような人間で、どういう性格で、どういう仕事に向いていて、ひいては将来どのような運命が待っているかを読みとることを、「算命」といい、占い師の仕事になります。

八字を求めるだけなら、実はそれほど膨大な資料は必要なく、計算式と表があれば素人でも出来るので、それを活用した四柱推命のようなコンピューター占いも多く見受けられますが、コンピューターの行う思考とは統計の参照と計算であって、占い師の「算命」とは異なるし、それゆえに例えば中医が患者の病状を細かく問診票にしてコンピューターに入力しても、中医の診断にはならないように思います。

さて、翻訳業界でもコンピューターの出番が増えてきましたが、コンピューターが翻訳文を決定する方法と、人間のそれの決定的な違いとはなんでしょうか?ルール型と統計型の違いをとりあげたことがありますが、どのような方法であってもコンピューターの特徴は「考えない」ことだと思います。

原文の言いたいことを解体し再構築する、そういう能力が人工知能に備わったなら、翻訳者も占い師も中医もコンピューターに仕事を奪われそうですが、人間のAIに対する優位性とは捨てることが出来る点だと言われたりすることもあります。人間だって「考える」という活動を説明しきれているのかなんて言い始めると、哲学的でSFっぽいお話はマニアックになりすぎるからこの辺で、あとは皆様の思索にお任せしますかね。

 
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「北京から見る日中翻訳業界」 第8回 「敢えて変えるのか、敢えて変えないのか」
中国人の訪日旅行ネタは話題が尽きませんし、日本の受け入れ側の翻訳需要も増えており、日常的な言葉遣いが増えると、同じ漢字の同じ熟語が多く存在する日本語と中国語の間の翻訳でも、違う言葉に変換しなければならないケースが多くなります。

例えば「地元の名物料理、ぜひ挑戦してみてください!」なんて文章を翻訳する時に中国語でならどうなるでしょう。あるいは「新しくできたアトラクション、ぜひ挑戦してみてください!」ならどうでしょう。「挑战」という中国語はありますし、辞書を引いてもほかの訳語が掲示されませんけど、あんまり適切な訳語とは思えませんね。辞書は言葉の意味を説明するもので、訳語を提案してくれるものでない例の一つだと思います。

アトラクションと言えば1年延期されましたが、来年には上海ディズニーランドが開園予定で、設備や資料などの準備が着々と進められているところです。日本の東京ディズニーランドでは「シンデレラ城」になっているところ、中国では「奇幻童話城堡」になる予定だそうです。

ところでディズニーランドの中国語、みなさんご存知ですよね。こういった訳語は同じ中国語圏でも訳語が分かれることもありますが、ディズニーランドの場合は香港と同じ「迪士尼乐园」が上海ディズニーランドの公式ページでも採用されています。

ただ、香港のディズニーランドなどが登場する前に、訳語が定まっていないころ、ディズニーランドのように「音」から漢字をあてる「音訳」では訳語が不統一になることもありました。特に台湾ではウォルト・ディズニーのことを「華特狄斯奈」とか「迪斯奈」などと言っていたころもあり、欧米の政治家や、ハリウッド俳優の名前などと同じく漢字の当て方がばらけるということは一定以上の知名度を得るまでの期間によく発生します。最終的には自然淘汰されるのを待つか、あるいは当事者が自分で決めることで定訳化されます。

蛇足ながら、中国では意味から翻訳出来る場合は、音訳は避けられる傾向があると思います。音と意味とを兼ね備えたコカ・コーラの中国語(可口可乐)なんて今でも名訳として取り上げられますしね。

さて、上海のディズニーランド以外に、5年後には実は北京にもユニバーサル・スタジオが開設される予定になっています。今年から改正された環境法なども奏功して、今は低迷している日本や国外から中国への観光客も復調したらいいのにとは思いますが、時を戻して今、日本へ出かける中国人の「爆買い」はまだ勢いが衰えていないようです。本稿執筆中はまだゴールデンウィーク前ですが、中国も1日から3日は三連休、この機に日本へ旅行を計画する中国人も多いようです。


春節休暇の際の「爆買い」は中国でも話題になりましたが、報道ではどういう中国語になったかというと「爆买」がそのまま使われるケースも多くありました。初めて聞いた時はしっくりこなくて、「抢购」(買い漁る)なんかの方が適切じゃないかと思っていたわけです。過去形にしたのは考えを変えたということですが、なぜかというと後者は中国にもともとあった「光棍節」(独身者の日 シングルデー)のオンラインショッピングキャンペーンに使われていた印象が強すぎて、言葉としてはなんだか借り物みたいな便りなさを感じました。

中国も新しい言葉がどんどん生まれていますし、日本からの言葉の逆輸入だって今始まったことではありません。根付くかどうかは別問題ですけど、こういう文化と言葉の交換が本当の意味で相互の関係を深めていくのだとも思うのです。

 
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「北京から見る日中翻訳業界」 第7回 「中国語翻訳に使うべき検索エンジンは?」
今回は翻訳や校正でお世話になっている検索エンジンについてです。

日本でよく使われているのはYahooGoogleであり、ほかを圧倒していると言って良さそうですが、世界のシェアで見ればトップはGoogle、2位はなんと中国の百度(バイドゥ)です。

日本で分からないことがあったら「ググってみな」なんて言葉が生まれましたが、中国で分からないことがあったら「百度一下」(バイドゥしてみよう)って言葉が生まれ、試験の問題に対して「百度したら、すぐわかります」って回答をした生徒がいたという笑い話にもなっています。


さて、それでは中国の検索エンジンのシェアをもう少し詳しく見てみると、トップは確かに百度で58.3%、2位が360(奇虎Qihoo)で24.9%、世界トップのGoogleは1%、Yahooはそれ以下ってことになっています。これにはいろいろ背景事情があり、2010年まで遡ればトップは百度ですがシェアは73%でした。今よりも高いですね。そして当時、百度を追随するのはなんとGoogleで24.3%をしめ、2強として市場を圧倒していたのです。

2010年はGoogleが中国を撤退した年です。サーバーを香港に移転して検索サービスは継続されましたが、中国大陸ではその後ネット検閲の規制が強まり、Google検索を含めたGoogleサービスは非常に不安定になり、速度や反応も悪くなったことからシェアをどんどん下げ、2014年の7月にほぼ全てのサービスが遮断された結果、上記のとおりシェアが1%ということになってしまいました。

2位の360はもともと、セキュリティソフトで有名です。360以前に中国には3強と呼ばれるセキュリティソフトがあったのですが、360は完全無料という戦略でシェアを拡大しました。また、360は2012年に検索エンジンのサービスを開始する前に、「ウェブブラウザ」もフリーウェアとして提供しており、検索エンジンサービス開始時にはすでにブラウザソフトのシェアを25%も占めていたのです。

360のとった戦略は自社の提供するブラウザの検索エンジンを、初期設定で自社のものにした結果、1年たらずで百度から10%以上のシェアを軽々と奪い去ったのです。百度も同様にブラウザソフトやセキュリティソフトを作っているので、市場の競争は激化しました。ブラウザとバンドルでインストールされるセキュリティソフトには、自動的に他社のソフトをアンインストールもしくは無効にしてしまうようなものや、あるいはインストールされたパソコンのなかで情報を自動収集するプログラムするものなどが含まれるなど、セキュリティソフトからのセキュリティを考えなければならない事態となったのです。

念の為に申し上げますが、どの検索エンジンを使うにしても、そのためにブラウザソフトやセキュリティソフトをインストールする必要はありません。検索エンジンのサイトやポータルサイトから検索すればいいだけです。

その上でさて、どの検索エンジンがいいのかって言えば、現在のところ、日本語はGoogleかYahooで多少性格が変わるので、好みの合う方を優先、もう一つをサブにすればいいかと思います。中国語は筆者の場合はシェアの高いところから優先して使用していますが、Googleがおりた後で百度が1強になった期間に精度が落ちたというようなことも囁かれています。

360という伏兵の躍進で市場競争も上記のように激化していますが、他社の妨害ではなく自社の品質や精度の向上で競争し、ユーザーが安心して便利に使える選択肢が増えることを願うところです。

 
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「北京から見る日中翻訳業界」 第6回 「中国人はなぜ日本の炊飯器が好きなのか」
春節あけて初回のブログです。

今年は中国人の訪日観光客による「爆買い」なんて言葉が生まれるほど日本のメディアでも注目されていました。

特に話題になったのは中国メディアでも報道されましたが、電子炊飯器と温水洗浄便座で、中国でも安くて実用に耐えるものが売っているのに、なぜ日本に行ってまで、友人知人の分まで1人でいくつもの炊飯器を買ってくる必要があるのかってことでした。たしかに日本米を軟水で炊くなら日本の炊飯器だとまるで違うという日本人の声はあります。でも中国の水は基本が硬水ですし、日本米は輸入品がありますけど普通の米の10倍ですよ。

主な理由として一つには同じメーカー・ブランドでも、あるいは同じMade in Chinaでも、海外で販売されているものが信頼されているということはあると思います。日本でもかつて、同じ日本メーカーでも日本国内向けは1年で壊れるのに海外に輸出されたものは10年使えるなんて話題があったことを思い出しますね。化粧品などは中国人女性にとって日本旅行のマストバイ、同じメーカーの中国国内向け商品が、中国各都市のワトソンズ(ドラッグストアの名称)で安く売られているにもかかわらずです。

二つ目の理由として、中国国外で販売されているものの購入を考えた場合、同じ商品でも中国で購入する方が高くつくケースは多いことがありそうです。中国でも大人気のiPhone6は日本で87,800円の機種が、中国で買うと6,088元約118,000円です。これでも3割以上違うわけですが実は差異としては小さいほうです。モノによっては2倍、3倍になることも珍しくなく、温水洗浄便座などは日本の4倍の値段で売られているものもあるそうです。iPhone6だって品薄の時は瞬間風速で2万元(30万以上!)にまでなりました。

さて、これほどの差になると出てくるのが上記でも少し触れましたが転売屋です。もちろん正規のルートで売れませんけれど、例えば「タオバオ」で日本進口(日本からの輸入)とか原装(輸入品)とか代購(代理購入)とかで検索したらいっぱい出てきます。なかには商品がニセモノでないことの証拠として、日本のアマゾンでの発注画面を掲載しているような出品者もいます。どれがホンモノでどれがニセモノかの判断は、購入者のレビューを見たり、QQ(中国のチャット)で出品者とチャットして探ったり、値段が相場から見て妥当かを検討したりして判断します。日本で買えばニセモノかどうか疑う必要がありませんね。これが三つ目の理由と言えそうです。

タオバオといえば昨年にNY上場したことで話題になったアリババ・グループのECサイトですが、ニセモノや不正規品が多いことも指摘されていました。中国のECサイトは他にもテンセント(騰訊)が運営する京東(JD.COM)や、アマゾン中国など多数ありますが、上記のような、相場を知りたいという場合、一つの判断基準として申し上げますと、京東やアマゾンにはTradosのパッケージ版や、1本10元のWindows8のシリアルキーなんてものは出品されていませんが、タオバオにはあります。Windows8が10元と思う人も、SDL社は中国に限ってパッケージ版を販売していると考える人もいないでしょうけど、こういった背景事情を知っていることは翻訳の精度をあげることにとても大切だと思うところです。

ちなみに炊飯器、私は日本から持ってきたものを使っています。中国の東北米はかなり日本米に近くて、結構美味しく炊けるのです。

 
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「北京から見る日中翻訳業界」 第5回 「北京のお寿司の美味しい訳し方」
アイ・エス・エス・インスティテュートと同じ、翻訳センターグループの一員である北京東櫻花翻訳公司(本社:北京市)のマネージャーが、日中の翻訳業界の真相をお伝えします。

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北京にある日本料理店やお寿司屋さんなどの広告に、「築地直送」なんて言葉をたまに見かけます。日本人向けのフリーペーパーの広告だから日本人向けか、日本との関わりが深い中国人向けなので、広告も多くは日本語オンリーです。

さて、北京のお寿司は値段やランクがバラバラで、庶民向け回転寿司なら一人あたり2000円から、中級ランクで5000円、高級店になると20000円で足のでる店も少なくありません。北京の平均月収は10万円くらいというところを考えあわせて欲しいのですが、高級店であったとしても、客層は日本人だけでなく多くの中国人が通っていると言われています。北京に住む日本人はせいぜい10000人程度だし、日本人だってこんな高い店に通えるような人は限られます。日本人にターゲットを絞るより、お金持ちの中国人をターゲットとして狙う、これは北京で飲食店を経営する上でよく言われるところでもあります。

ところで寿司屋といえばネタが命です。冒頭で書いたように、築地直送をウリ文句にしている店もあります。築地というのはもちろん東京の築地です。中国に築地っていう店を作ったとかそういうオチではありません。わざわざ東京から直送ってところで、「そりゃすごいね」って思う反面、個人的にはあまり魅力的には感じません。東京近郊のちょっぴり海と離れた街でいう「築地直送」と、わざわざ陸揚げされたものをもう一度海の向こうまで輸送するのとは同じレベルの話ではないし、そもそも「直送」というのに無理があるような気もします。

そんななかで、「中国の漁港でも築地の寿司屋と同じレベルを実現できる」と言い、それを実践している寿司屋の大将(日本人)がいると聞いたことがあります。つまり、築地の誰か知らない人が選んだ魚ではなくて、自分の目で、現地の港で目利きすれば、とれたての新鮮な魚を安く効率よく北京で提供できるというわけです。これはコストダウンと同時に品質向上を図れるし、なによりほかに真似が出来ないという点で、まさにこれからの中国で、全ての経営者が見ならうべき好例だと思いました


さて、私達が取り扱う翻訳には、本場とか築地とかそういうものがありません。「日本流の翻訳」なんて肩書では仕事が取れないわけですから、経験ある寿司職人だから出来る目利きと同じく、経験ある翻訳者、翻訳会社だからできる「何か」が必要です。前回までのお話でツールを使った翻訳による生産性の向上、重複する用語表現の統一による品質向上ということを紹介しました。今回のトピックは「築地直送」という言葉をどう翻訳するかってところです。

同じ漢字を使う日本語と中国語では特に、時には原文に引きずられないように離脱しなければならない時もあります。同時に、法務や金融などの分野ではあえて多少意味が代わっても同じ漢字のまま日本の当用漢字を中国の簡体字に変換するだけの場合もあります。たとえば法律名などは同じ法律であることに関して誤解を避けるために、翻訳してもその脇に括弧書きで原文中国語を併記するというのも一つの手法です。

築地直送という日本語をそのまま中国語にしても、標準的な中国人にとって「築地」という言葉から漁港や陸揚げされたばかりの鮮魚を想像することができません。ただ、「直送」からイメージされるのは、「老板親手従日本空運過来」(大将直々に日本からハンドキャリー)ってことだと私なら想像します。赤裸々に翻訳すると、もはや広告のコピーには出来ませんね。個人的には中国語に翻訳しないことを勧める次第です。

日本人や日本に馴染みのある中国人に対しては、「築地直送」のままにしておいて、なじみ客から聞かれたらこっそり耳元で囁く、それが北京の寿司屋っぽくていいかなと思ったりします。

 
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「北京から見る日中翻訳業界」 第4回 「儲け過ぎたら搾取?」
アイ・エス・エス・インスティテュートと同じ、翻訳センターグループの一員である北京東櫻花翻訳公司(本社:北京市)のマネージャーが、日中の翻訳業界の真相をお伝えします。

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「外資企業が中国人の金を不当に儲けている」という視点は特段新しいものではなく、観光地に外国人用の料金があったころから変わらず、現在でも外国人と聞いたら値段が変わる商店は多くあります。中国の商店で、値札のついているものはむしろ少ないのです。

最近というか、毎年話題になっている話にアイフォーンが原価に対して儲け過ぎだという話があります。アイフォーン6が発売された際、交渉で値段が決まる中国らしく品薄時には6000元あまりのアイフォーンが20000元まで高騰し、そんななかで中国の中央テレビでは、アップルがいかにあくどく儲けているかをニュースとして取り上げました。

おもしろかったのはこれに対するネットユーザーの反応で、「原価に対して高すぎて問題があるなら、中国の粗悪セメントで出来たマンションの原価率や、中央テレビの数十秒のコマーシャルの原価率はどれほどのものになるのか計算してみればいい。だいたい、中国の100元札の原価は2元もするのかってことだよ。」などというものが溢れかえりました。

ともあれよくある話として、中国では原価率が低いと暴利だなんて責められがちだったわけですが、最近はそれだけではなく、差額に付加価値を見出す層も生まれてきています。1杯10元(約200円)のローカルコーヒースタンドの隣で、1杯20元(約400円)のスターバックスに列が出来るのです。

さて、それでは中国の翻訳の原価はいくらでしょう?

もちろんピンからキリまであります。中国の翻訳業界はたいていが1000文字を基準に取引されますが、フリーランサーの取り分としては、たとえば出版社の翻訳なら70元くらいが相場、学生のアルバイトならその半額くらい、専門性の高い翻訳エージェンシーなどの技術翻訳なら下は80元から上は200元もらわないとやらないよというハイクラスな翻訳者の先生だってたくさんいます。

翻訳エージェンシーはそれら原価の上に、顧客との打ち合わせ、トータルデザイン、用途・目的に応じて提案、用語集やテンプレートなどの整備、適宜ツール使用によるQAなど付加価値をのせて販売するわけですが、かつてこの「付加価値」を認めてもらうことが非常に難しい時期がありました。いまここに変化が起きつつあります。顧客にどんな提案をしようか、私はいつもワクワクしています。

スターバックスで言えば、客の顔を覚えること、客の好みを覚えること、客の名前を覚えること、客との会話が出来ること、客に笑顔で挨拶できること、客にお礼を言わせてしまうこと、それらはすべて中国でローカルショップの倍の値段を出してもスターバックスのコーヒーを飲みたいと思わせるに足りる付加価値でありますが、それらを価値として認められるような社会の下地ができてきたのは最近のことだろうと思います。

私のように一日に何杯もコーヒーを飲む人間にとってスターバックスは敷居が高いですが、美味しくないコーヒーも飲みたくないので、焙煎してカフェにおろしている豆屋からミルにかける前の豆を購入しています。ただ、中国人全般でみればコーヒー文化は歴史も浅く、味をきき分ける人も少数派でしょう。だからこそ、上述のように多くの人は1杯のコーヒーそのものだけでなく、カフェの雰囲気とか過ごす時間とか受けるサービスとか、そういった付加価値がのった金額として支払う価値を見出し始めたのだと思います

翻訳業も含むサービス業にとって、中国はこれからが面白いと言えるのかもしれません。

 
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「北京から見る日中翻訳業界」 第3回 「中国の扉の鍵の存在の意義」


「此門已壊(この扉、壊れています)」という張り紙は北京の町並みのなかで珍しくありません。多くのレストランやコンビニエンスストアの入り口はガラスの観音開きの扉なのですが、「押す」と「引く」を間違えて無理やり開けたりするために簡単に壊れてしまうのです。

ちなみに、私の住んでいるマンションのエントランスにはオートロック機能がついているのですが、365日24時間常に扉が開け放たれていました。なぜなら、閉めてしまったら解除カードキーを持ってない住民が力任せに扉を開き、電子錠自体を壊してしまうからです。

このような状態に対してマンションの管理組合に苦情を出す住民もいて、ようやくオートロック機能が作動するようになったのですが、無理に開けて壊されるのを防止するため、24時間体制でガードマンが置かれることになり、すると住民は彼らを頼りにして解除カードキーを持ち歩く人がさらに減り、ガードマンの役目は出入りする人々のためにロックを解除することになってしまいました。


このように、「行為の意味や目的」を考えずに「眼前の問題」を解決する最も簡単な方法を考えてしまうという問題は、工場などの生産現場でも多く見うけられ、例えば各工程を管理するためのQCシートを作ったら、作業を始める前にQCシートだけすべて記入されてしまったという笑い話があります。

私自身も翻訳業務のなかで同様の体験をしたことがあり、CAT(翻訳支援ツール)を使って社内で翻訳するように翻訳担当に指示したところ、1文節ごとに訳文を入力して確定する手間を嫌って最初にすべての文節の原文を訳文入力欄に一括コピーし、翻訳メモリを一切参照せずに上から下まで手作業で原文を上書きする形で翻訳したものの、一つ一つ確定する手間を嫌って最後に一括確定してしまったために、本来訳文しか入ってないはずの訳文欄に、結果としては多くの原文が未翻訳のままで残ってしまったということがありました。

翻訳支援ツールについて簡単に説明しますと、文章をセンテンスで分割し、一度翻訳したセンテンスと同じセンテンスが繰り返された場合、1回目の訳文が翻訳メモリとなって2回目の翻訳で活用できるため、用語や表現の統一とともに、作業の効率を格段に向上することができるという性質があります。特にマニュアルや技術文書など、同じような表現の重複が多い文書では効果的ですが、上記のようなやり方をしたため、1回目も2回目も原文はまったく同じものが重複しているのに、訳文がそれぞれ異なっているという結果になりました。

ここで使った翻訳支援ツールはSDL社のTRADOSというソフトウェアだったのですが、実は上記のような「面倒」と見える一つ一つの作業には、すべてショートカットキーが割り当てられています。キーボードにおいていた手をマウスに持ち替えるから面倒なだけで、ショートカットキーを使用するなら1秒もかかりません。また、ソフトウェア自体に未翻訳を検証する機能、原文と訳文で数字が異なっていたり、センテンスが大幅に長い短いという違いを検証したりする機能など使いこなせば上記のような問題はすべて防止することができます。


さて、中国の非効率性についてのお話になりましたが、私たちの翻訳ツールに関して言えば、機能を活かしきれていないのは中国に限ったことではないかもしれません。一般庶民としては自分ができる生産性の向上に励むしかないわけですが、非効率な社会においてこれを実現するのは難易度が高くもあり、しかしながらそれゆえに、自らの工夫によって実現できた場合の効果も期待できるのかもしれません。

 
| 【中国語翻訳コース】 | 11:00 |
「北京から見る日中翻訳業界」 第2回 「翻訳業界における生産性と付加価値」


ちょうど今回の記事が掲載されるころには、北京のAPECも終わっているだろうと思います。陽光降り注ぐ晴天のもとで会議が進められるよう、開催1ヶ月前になって急遽APEC前後の日程が北京の公的機関や社会組織限定で6連休になったわけですが、さて結果はどうだったのでしょう?

中国のトップ主導というと一事が万事この調子で、たとえば年間の休日や祝日カレンダーは国務院から発表されますが、毎年年末押し詰まってからでないと出てきません。つまり正月休暇(1/1前後3日程度)も、春節休暇(1月乃至2月の約7日間)の日程も、12月末にならないと分からないため、1月2月は事前に計画が立てられず、まともな仕事になりません。1ヶ月前に6連休が降って湧いても「またか!」という感じです。

そのような計画性のない社会においては、なにをするにもマージンを広く持つ必要があり、つまりなにをするにも効率が悪くなるのが中国の現実です。大陸的な時間の流れを実感する、それもいいかと思える時期もありました。90年代に中国を旅行すると日本のような時間に縛られた生活からの開放感を感じることさえあったものです。


さて、前回のコラムでそんな中国でも人件費や不動産賃料などの高騰から、様々な面で国際競争力を失いつつあるなか、生産性と付加価値の向上が求められているというお話をさせていただきました。今回は翻訳業界における生産性と付加価値について紹介させていただきたいと思います。

その前に、すこしさかのぼって中国語翻訳の黎明期、日本に中国語の出来る人はすくなく、中国に日本語の出来る人も少ないころ、翻訳の多くは日本国内でされていました。翻訳者の絶対数が少ないので単価も高く、業務の絶対数も少ないものの、労働RATIOは高いオイシイ仕事だったのです。その後中国で日本語の出来る中国人が増えるにつれて、翻訳作業は料金の高い日本から中国へとシフトしはじめたわけです。

時間を戻して現代中国で、為替レートの変動は日本円で給与を受けている駐在員が帰国を切望するレベルになっています。中国国内のコスト増大に反して、国外への販売は人民元高による利幅の目減り、競争力の低下から値上げも出来ないという板ばさみのなかにあります。生産性を上げることで翻訳にかかるコストを抑え、付加価値をあげることで顧客からの値下げ圧力に耐えるということが、中国ではほかのあらゆる業界と同じく、翻訳業界もまた直面している問題であるといえます。

では翻訳業界における生産性の向上とはどのように進められるべきなのか、また翻訳の付加価値とはどういったものが求められるのかということになるわけですが、生産性の向上とは言うまでもなく翻訳や校正作業の効率向上であり、特に産業翻訳や技術翻訳の世界におけるそれは、CAT(翻訳支援)ツールの導入であったり、校正ツールの導入であったりすると同時に、翻訳や校正作業者の計画性や作業効率の向上ということが出来ます。

また、付加価値という点については、翻訳「サービス」という認識に則り、内容理解のための低コストの翻訳なのか、申請書類などの正確な翻訳、契約書など相互の権利責任の範囲を明確にする翻訳、販促パンフレットなどの心に響く翻訳など、「どのように」翻訳するのかという点にあるだろうと考えるところです。

 
| 【中国語翻訳コース】 | 22:20 |
「北京から見る日中翻訳業界」 第1回 価格と品質の平衡点


今回から中国の翻訳事情や北京のニュースなどを中国は北京よりお届けさせていただくことになりました北京東櫻花翻訳有限公司(英語名HC Beijing Inc.)と申します。弊社はアイ・エス・エス・インスティテュートと同じ翻訳センターグループの中国子会社です。

弊社が、北京に設立されたのが2008年ですので、すでに6年が経過したことになりますが、この間に北京ではオリンピックが、上海では万博が開催され、都市内でも都市間でも地下鉄や高速鉄道や各種設備などのインフラ建設が一気呵成に進められました。しかしながら、ハード面の整備に対してソフト面の成長の遅れが指摘されることの多い中国経済において、翻訳業界もまた同じ課題に直面していると言うことができるかもしれません。

豊富で安価な労働力に頼っていたからこそ、工場などの機械化は遅れ、個々の従業員の技量向上より全体で平滑化された作業レベルを維持することで、高品質でなくても一定品質の大量生産が低コストで実現できたわけです。しかし、現在は事情が変わり、5年で倍になったことで有名な労働者の最低賃金や、オフィスや工場の賃料の高騰などで生産コストが増大し、同時に中国の成長を支えてきた輸出が、継続的に高くなっている人民元の為替レートの圧迫と重なり、価格と品質の両面で競争力を失いつつあるということです。

やや大きな話になってしまいましたが、実は翻訳業界にもその縮図を見ることが出来ます。翻訳者を育て、品質を向上させることよりも、安価に、大量にさばいていくことに注力されがちで、品質が少々悪くても、それを補ってあまりあるコストの優位性があり、国内外の需要にこれがマッチしていたということが言えると思います。

少し脱線しますが、私が日本に帰国するたびに感銘を受けるのは、日本のサービスの高さではありません。日本のレストランやコンビニで働く中国人の素養の高さです。言葉はややたどたどしいですが、お客様の気持ちを意識した接客をしていることが実感できます。北京のコンビニはお客様が来店しても「歓迎光臨」(いらっしゃいませ)の一言も発せず、お客様が見えていないがごとくに商品の入れ替えをしたり、さらには従業員同士でおしゃべりを続けていたりします。

なにを言いたいのかと言えば、日本で求められていて、中国で求められていなかったものがそこに現れているのだろうということです。中国人でも日本人でも違いはなく、相手を意識して相手の立場にたって行動するか、自分の都合だけを考えて行動するか、そこに分かれ道があるように思います。

さて、翻訳を自分の都合で解釈して進めたらどうなるでしょう?翻訳する文書の種類、用途や目的によって、翻訳の仕方は千差万別に変化するはずです。自分が良いと思うものではなく、顧客が求めるものに仕上げるのがサービス業としての翻訳のあり方だと思いますが、顧客のニーズが理解できていない翻訳者にはこういう仕事はできません。

すべてがそうだとは言いませんが、これまでは低価格で、その価格に見合った品質のものが国内外の需要にマッチしてきたわけですが、現状としてはやはり工場生産と同じく、需給の乖離、競争力を失いつつあります。では、今後、翻訳業界としてはどのような対策をとり得るのか、どのような道を進むべきか、次回以降に掘り下げていきたいと思います。

 
| 【中国語翻訳コース】 | 12:00 |

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