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仕事ルポ:青山久子先生(中国語通訳)

仕事ルポの第1回は、中国語通訳者養成コースをご担当いただいている青山久子先生です。
これまでに携わった中で印象的な仕事について伺いました。


 ある日、読書の秋にふさわしい文学関係のお仕事を引き受けました。まだ本番まで数ヶ月ありました。

 本番が近づくにつれて、断片的に情報が入ってきます。「すごい人が来るらしいですよ!」→「中国のノーベル賞作家のコウさんという方が来られます」→「高先生と大江健三郎先生の対談があります」。

 大変なことになってしまいました!全然読んだことがありません!本番まであと1週間余りです。高行健をネットで検索すると中国版青空文庫のようなサイトがあり、代表作『霊山』や戯曲などが公開されています。大江健三郎は確かウチの妹が結構読んでいた筈と思い、適当に見繕って送ってくれと頼むと、彼女の大切な大江コレクション49冊がどーんと送られてきました。どうせいっちゅうねん!!傾向と対策を伝授してもらい何冊か読み、なんとかポイントはおさえられたようです。
 問題は高行健です。『霊山』は12万字の長編大作、これは間に合わないと思いつつ読み始めると「おまえ」を主人公とする章と「私」を主人公とする章が交互に延々と続きます。「私」と「おまえ」はキャラが違いますが、同一人物です。ストーリーはループし進展はありません(これが高氏の手法であることを後から知りました)。時々他の小説や戯曲に浮気しながらのろのろと読み進めました。
 やがてパートナーの「Tさま」とメールでやり取りを始めました。Tさまは日本語版を図書館で借りて読んでいるそうです。そうか!その手があったか!しかし私も原語で半分ぐらいまで読んでしまっています。一人は日本語で、一人は中国語で読んでおくのも良いかと思い、そのまま進めることにしました。読み進めながら、「森に迷い込んだ主人公はそのあとどうなったんだろう?」、「私達には読解力がないんだろうか」、「私達は文学を解さないのだろうか」、「こんな書評サイトを見つけた!」、「おフランスの話になったらどうしよう!?」、「ここは日本語では何て言ってる?」などたわいない会話をし、やがて当日を迎えました。

 実際にお目にかかった高先生は芸術家のオーラをまとった上品な紳士でした。記者会見を終え、某社の応接室で対談の時を迎えました。通訳は高先生と大江先生に一人ずつつくよう指示され、ここまで来たらどっちでも同じだと思い、なんとなくTさまは大江先生に、私は高先生につきました。席についてナマ大江健三郎を観察します。『霊山』単行本にびっしりと付箋がついています。原稿用紙に万年筆で書かれた原稿も用意されています。対談に向けてここまでの準備を…!大江先生の真摯で誠実なお人柄が伝わってきます。素敵です!途中別の眼鏡を取り出し掛け替えられましたが、全く同じデザインの眼鏡が出てきました。対談が始まり、大江先生の口からポーランドの詩人の名前が次々と出てきます。不意打ちです。今度は高先生の番です。「拝読した作品は、『個人的な体験』、『アナベル・リイ』…」。『アナベル・リイ』の正称は『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』です。ご本人の前で『アナベル・リイ』と略してしまうのは恐らく失礼に当たるでしょう。「ファンキーモンキーベイビーズ」を「ファンモン」と呼ぶようなものです。「キリンジ」はユニット名を略されるのが嫌で4文字にした程です。高先生はよりによって何度もこの作品に言及、その度に『臈たし…』と繰り返しました。また、「ヒューマニズム」ではなく敢えて「ユマニスム」という言葉を使う意味も、共にフランスという共通項もあり、高い境地におられるお二人であればこそわかりあえるのでしょう。対談の内容はお互いの作品、芸術論、音楽、今後の創作活動など多岐にわたり、あっという間に時間が過ぎて行きました。

 このお仕事のお陰で大江健三郎入門をクリアし、その後何冊か新しい作品を読みました。中でもお勧めしたいのが『チェンジリング』です。人の命が永遠に受け継がれて行くことを感じさせる、読後感爽やかな作品です。
 この文を書くにあたり、大江健三郎の『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』と高行健の『霊山』を読み直しました。やり残したことがあるような気がしていたのです。




<青山 久子先生のプロフィール>
東京出身。日本で4年制大学(中国文学専攻)卒業後、北京の大学に2年間留学(国際経済専攻)、帰国後フリーランス通訳・翻訳者として活動。万博通訳コンパニオン、気象会社の気象・海象予測担当を経て現在会議通訳・放送通訳、企業向け中国語講習などに従事。気象予報士、防災士。


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講師インタビュー:青山久子先生(中国語通訳)


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