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『ザ・通訳道』:徳久圭先生 (3)


徳久先生の連載最終回では、これまでに届いたご質問より1つに限定し、先生にお答えいただきます。

<ご質問>
現在テキストなどを使い、個人的にトレーニングしている者です。
記憶力が悪く、10秒から20秒程度の長さでも、内容を落としてしまいます。
また、忘れたと思うことにより、余計にあせり、そこで訳出が止まってしまいます。どのような訓練をすれば、このような状況にならず、きちんとした訳ができるようになるのでしょうか? メモはどの程度頼りにすればよいのでしょうか? ご教示いただければ幸いです。


 逐次通訳の訓練で、「短時間の発言なのに内容を捉えきれない」とか「メモが追いつかない」、あるいは「内容を落としたことに焦って、ますます支離滅裂な訳出になってしまう」という悩みはよく寄せられます。

 おっしゃるとおり、記憶力が弱いというのは原因の一つだと思いますが、原因は他にも色々とありそうですね。たとえばリスニング力の弱さ。聞こえてきた音が確かな意味を持って映像を結ばないから、記憶となってのこらず、内容を落としてしまうわけです。

 リスニング力を伸ばすには様々な方法が考えられますが、個人的にはディクテーション(書き取り)を大量に積み重ねるしかないと思っています。いまはラジオのニュースでもテレビの解説番組でも、素材はインターネットで簡単に入手できます。これを聴きながら、一字一句もらさず精緻にディクテーションするのです。時間もかかりますし、非常に疲れる訓練法ですが、頭の中に明確な映像を結ばない単語やフレーズを身体に覚えさせるためには、こういう地道な訓練を積み重ねるしかありません。しかも大量に。

 一方で「精緻なディクテーション」と矛盾するようですが、訳出の訓練では「いくつか単語が聴き取れなくても、文章全体で意味が取れればよい」と開き直ることも大切です。簡単な例を挙げると、"今天我跟傑克一起去新宿伊勢丹買東西。"という発言があったとして(あまりに簡単すぎますが)、仮に"傑克"とか"伊勢丹"などの予期せぬ名詞が聴き取れなかったとしても、話の核である"去新宿買東西"が聴き取れれば、何とか発話者の意図は訳すことができるはずです。もちろん固有名詞を落とせば、訳出の質も落ちますが、パニックになって何も訳さないよりはずっとましなのです。

 いま「意図を訳す」と書きましたが、「意味ではなく、意図を訳す」ことを意識するのもよいかもしれません。通訳訓練を担当していていつも感じるのは、みなさん語学学習で長年取り組んでこられた「日文中訳」や「中文日訳」からなかなか抜け出せないということです。これはおそらく中学校や高校での語学教育も影響しているのだと思いますが、前述の"今天我跟傑克一起去新宿伊勢丹買東西。"という発言を「今日私はジャックと一緒に新宿の伊勢丹に行って買い物をします」などと、それはそれは律儀に訳そうとする方が多いですね。聞こえてきた単語を片っ端から頭の中で翻訳しようとするんです。でも、このように簡単な発言ならまだしも、より複雑な発言でそんなことをやっていたら、たぶん追いつかなくなると思います。

 それにこの訳、少々堅すぎませんか。語学の試験なら満点でも、通訳者の訳出としてはやや魅力に欠けます。日本語は分かりきった主語を極力省こうとしますから、話し手がはっきりしていれば「私は」は不要ですし、"一起去買東西"も「(だれそれ)と買い物」だけで「一緒に」のニュアンスはすでに出ています。時と場合にもよりますが、生身の人間はもっと自然な話し方をするのではないでしょうか。そして通訳者はその生身の人間になりかわってしゃべるのが仕事なのです。

 「まあ大体こんなことを言ってるんでしょ」といういいかげんな訳出を推奨するわけではありませんが、「日文中訳」や「中文日訳」から抜け出して、話し手の意図を的確につかみ、その人になりかわって人間味のある訳出ができるようになるためには、サマライズ(要約)やパラフレーズ(言い換え)などの訓練が有効だと思います。

 さらには、こうした話し手の意図をふまえた訳出を可能にするためには、事前の十分な調査に基づく背景知識が力を発揮することは言うまでもありません。豊富な背景知識がリスニング力をバックアップしてくれることもあるのです。

 メモについてもご質問がありましたが、メモはあくまでも記憶の補助です。メモを取ることに集中しすぎてリスニングがおろそかになったり、メモの解読に苦労して訳出が乱れたりするようでは本末転倒です。できるかぎりの省力化を目指して記号や絵を活用する一方で、短期的な記憶力自体の強化に努力すべきでしょう。

 そうした短期的な記憶力を増強するために、そして正しい文法や語順や語感を身につけるために、シャドーイングやリピーティングなどの基礎的な通訳訓練も引き続き行ってください。しつこいようですが、これも大量にですよ。

 というわけで、結局はISSインスティテュートでみなさんが日々行っているようなさまざまな訓練を地道に積み重ねて、実力を向上させるしか方法はないというありきたりなお答えになってしまいます。「語学に王道なし」といいますが、「通訳道」にも王道はないのでした。


中国語通訳者養成コース講師 徳久圭(とくひさけい)

武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。出版社等に勤務後、社内通訳者、フリーランスの通訳者・翻訳者等を経て、現在日中学院専任講師、アイ・エス・エス・インスティテュート講師。

| 『ザ・通訳道』 | 10:05 |

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