通訳・翻訳養成学校のISSインスティテュートでは、キャリアにつながるプロの語学力を養成します。

ISSスクールブログ

アイ・エス・エス・インスティテュートが運営しています。


<< 授業体験レポート:2019秋【英語編】最終回 「トンネルの向こう」 | main | 中国語翻訳コース特別セミナーレポート「1時間で理解できる〜翻訳者が語る翻訳実務〜」 >>
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第45回:岩木貴子先生(英語翻訳)

library.png

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
-------------------------------------------------------------------

今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、岩木貴子先生ご紹介の「翻訳できない世界のことば」(エラ・フランシス・サンダース著, 前田まゆみ訳, 創元社, 2016年)です

-------------------------------------------------------------------

 

多様性を教えてくれる素敵な絵本『翻訳できない世界のことば』

 

『翻訳できない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース著、前田まゆみ訳、創元社、2016年)という絵本はもう読まれましたか? イラストレーターの著者による素敵な絵本を、絵本作家で翻訳家の方が訳されたので、一冊の本としても、絵本としても、翻訳書としても素晴らしい仕上がりになっています。

 

個人的なお気に入りは、pisanzapra(ピサンザプラ。「バナナを食べるときの所要時間」という意味のマレー語の名詞)やporonkusema(ポロンクセマ。「トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離」という意味のフィンランド語の名詞)。ポロンクセマは約7.5キロとか。人々の生活を感じさせてくれる言葉です。ピサンザプラは「人によって、またバナナによっても」違うのですが、「一般にはだいたい2分くらい」だそうです。一方、壮大なスケールなのはkalpa(カルパ。「宇宙的なスケールで、時が過ぎていくこと」という意味のサンスクリット語の名詞)。インドでは悠久の時間が流れているのですね。生活に根づいた文化を感じさせるこういった言葉を眺めていると、“多様性”という言葉が浮かんできます。

 

ほかにも、resfeber(レースフェーベル。「旅に出る直前、不安と期待が入り混じって、絶え間なく胸がドキドキすること」という意味のスウェーデン語の名詞)やiktsuarpok(イクトゥアルポク。「だれか来ているのではないかと期待して、何度も何度も外に出て見てみること」という意味のイヌイット語の名詞)など、魅力的な他国の言葉が紹介されています。「そんな概念・感情・行動がこの言語では言葉になっているんだ」と驚くと同時に、ちょっと切ないような、胸がキュンとするような。まったく異なる文化の、言葉も知らない国の人々でも、社会の決まり事や言語、文化、政治といった表層的な部分をとっぱらうと、人間としてのとても無防備な感情が垣間見えて、それがとても愛おしく感じられる、とでもいうような(この感情も、もしかしたらどこかの国では一語で言い表されているのかもしれません)。

 

タイトルについて、「『翻訳できない』は、厳密にいうと『りんご=apple』のように1語対1語で英語に翻訳できない、という意味」だと訳者あとがきで説明されています。“一語で言い表せない”だけであって、“理解の範疇を超えている”のではありません。たとえば、mamihlapinatapai(マミラピンアタパイ。「同じことを望んだり考えたりしている2人の間で、何も言わずにお互い了解していること。(2人とも、言葉にしたいと思っていない)」という意味のヤガン語の名詞)。ヤガン語はチリの原住民の言語だそうです。以心伝心と似ているので、日本語話者にとっては親しみやすい概念ではないでしょうか。こういう言葉は人としての心をのぞかせてくれます。それは決して異質なものでも珍妙なものでもなく、私たち自身の姿がそこにはあります。

 

本書から伝わってくるのは、多様性は“異質性” と同時に“普遍性”も内包している、ということです。「そんな風に世界をとらえているんだ」という文化の異質性の面白さと、「でも分かる」という共感を呼び起こし、人間存在の普遍性を感じさせてくれる本書には、翻訳の醍醐味がつまっていると思います。

 

-------------------------------------------------------------------

岩木 貴子(いわき たかこ)
フリーランス翻訳者として出版、実務分野で活躍中(英→日、日→英)。アイ・エス・エス・インスティテュートでは、英語翻訳者養成コース、総合翻訳科、ビジネス英訳科の本科レベルを担当。
-------------------------------------------------------------------
評価:
エラ・フランシス・サンダース
創元社
¥ 1,728
(2016-04-11)

| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |

CATEGORIES

RECOMMEND BOOKS


SELECTED ENTRIES

CALENDAR
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< July 2020 >>

リンク

モバイル
qrcode