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中国マンガを翻訳してみて考えること【第3回(最終回)】マンガ翻訳で気をつけていること その2

 

 

中国語翻訳者の串山と申します。ISSには十数年前に翻訳者養成コースの基礎科一番下のクラスから本科2まで通っていました。このたび中国マンガの翻訳について、この場をお借りして書かせていただくことになりました。何か皆様のご参考になる部分があれば幸いです。

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 前回と同様、『如夢令(じょぼうれい)』和訳の具体例などからマンガの翻訳について考えてみます。

 

■ルビについて

 

 前回も書きましたが、この『如夢令』の翻訳には「すべての漢字にルビを振る」という制約がありました。スマホの画面で見ることを考えると細かな文字はなるべく少ない方が読みやすいはずですが、編集方針なのでしかたがありません。そこで、そのルビのスペースを表現の場としても活用することを考えました。

 

 例えば「府(やしき)」のようにルビを振れば「府は邸宅を意味する」という注釈の代わりになります。「長兄(あにうえ)」とすれば「ちょうけい」と読むよりもニュアンスがやわらかくなり、かつ長男であることが明示されます。「東宮」には文脈に応じて「とうぐう」「あにうえ」というルビを使い、その能力を評した「東宮(むのう)」というルビも登場する予定です。「大哥(おおにい)」「二哥(ちいにい)」「三哥(さんにい)」という処理は、「哥」の文字を使うこと自体を含めて賛否の分かれるところかもしれません。「端木大臣(あやつ)」は、読み方をセリフとして自然にしつつ「大臣」であることを読者に説明しています。「敷布(シーツ)」は、時代物としての雰囲気と意味の分かりやすさを両立させるための処理で、二回目に出てくるときは「敷布(しきふ)」としています。

 

■登場人物の表記

 

 翻訳に限らず、中国物では登場人物の表記をどうするのかという問題があります。漢字にするのかカタカナにするのか。漢字にした場合の読みは日本語読みか、中国語読みか……。今回の翻訳では、基本的には「漢字表記、日本語音読み」とし、一部の呼び名などに限って「中国語風」のカタカナ読みを使っています。

 

 具体的には、フルネームは「扶良(ふ・りょう)」としていても、呼び名の場合は「良(リャン)」とするなど使い分けています。「軒児(シェンル)」については、例えば「シュエンル」とする方が中国語の発音に近づくのかもしれませんが、文字数が増えるし、日本語としてはちょっと読みにくい……。「読みやすいからこその呼び名だ」という考えに基づいて、原音の再現性には固執しない「中国語風」のカタカナ読みを採用しています。
 日本語の音読みは基本的に漢音ですが、場合によっては呉音(より古い音読み)も採用しています。例えば「赤羅刹(しゃくらせつ)」の「赤(漢音:セキ)」は仏教用語的に呉音としています。

 

■話しの終わり方

 

 中国のテレビドラマをご覧になる方は、CMに入るときや、その回の話が終わってエンディングテーマが流れるときに「ぶつ切れ感」を感じたことがないでしょうか? 映像編集のスタンスに何か違いがあるのだと思いますが、日本のドラマに慣れた目で見ると余韻が足りないように感じてしまいます。『如夢令』第九話の終わり方にも、やや似たような「ぶつ切れ感」があります。しかも、よりによって、これが単行本1巻の最終話になっているので、もう少し配慮すべきだったと反省しています。

 

 例えば、最終ページの刺客の後頭部に石が当たっている絵に、描き文字(効果音などの手描き文字)風に「!」という記号を加えるだけでも、かなり違う印象(余韻)になったかもしれません。一般文章の翻訳でもそうですが、なんとなく感じる「違和感」には、やはり何か原因があるのですね。

 

* * *

 

 中国マンガを輸入するという試みは、実はこれまでも行われていて、過去にはすでに日本でアニメ化された作品もあるようですが、一般的な認知度はまだ高くないように思われます。しかし、中国では本当にたくさんのWebマンガが配信されていて、そこからこれまで日本に存在しなかったような作品が発掘される可能性は、確実にあると思っています。そんな将来性にも期待しつつ、中国語のマンガをおもしろく翻訳する方法をこれからも模索していければと思っています。

 

 この連載は以上となります。効果音(描き文字)の処理や横書き作品を読みやすくする工夫など、まだまだ書きたいことはあるのですが分量に収まりませんでした……。このたびは中国マンガの翻訳について執筆の機会を与えていただきありがとうございました。皆様の参考になる部分が少しでもあれば幸いです。(串山)

 

 当該作品の中国語版、日本語版は下記サイトで配信されています。

 

中国語版:《如梦令》 腾讯动漫
https://ac.qq.com/Comic/comicInfo/id/550368

 

日本語版:『如夢令-偽りの花嫁-』 LINEマンガ(ジーンLINE)
https://manga.line.me/product/periodic?id=0000czbu

 

 『如夢令(じょぼうれい)』の作品内容などについては個人のブログにも情報があります。ご興味のある方は是非!

 

個人ブログ(『ほんやく修行』中国語):
https://kushiyama.exblog.jp/

 

 

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串山 大(くしやま・だい)
ISS中国語翻訳者養成コースで翻訳の基礎を学ぶ。フリーランスの翻訳者、チェッカーとして10年ほど活動した後、中国語専門の翻訳会社にて品質管理を担当。2017年に再びフリーとなり、以後、実務翻訳だけでなく、角川まんが科学シリーズ『どっちが強い!?』など漫画作品の翻訳も手がける。

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