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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第40回:小宗睦美先生(英語通訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、小宗睦美先生ご紹介の「丹野智文 笑顔で生きる 認知症とともに」(丹野智文著, 2017年, 文藝春秋)です

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「通訳の仕事をしていて良かったと思う瞬間は?」と聞かれることがあります。通訳の内容はその時々で違いますが、私にとってそう思う瞬間はいつも同じです。自分がその場にいることで誰かの役に立ったと思えたとき、そして通訳をしたおかげで新しい世界に出会えたとき、そんなときに「通訳をしていて良かった!」と思います。

 

今回は、ある通訳の仕事を通じて私が出会った新しい世界、そして、その世界を私に教えてくれた人の本をご紹介します。

 

今から3年前、知人を通じてテレビ局のプロデューサーの方から通訳の依頼がありました。話を聞くと、若年性認知症の当事者である「丹野智文さん」と、丹野さんと一緒に認知症当事者を支える活動をしている人たちがスコットランドを訪問し、現地の認知症当事者と出会う旅をする、その旅の同行通訳を探しているとのこと。また旅の模様は特集番組として放送されるとも聞きました。

 

「これは面白そう!」と二つ返事で引き受けはしたものの、それまで私は「認知症」と聞いても、お年寄りの病気で、物忘れがひどくなり、徘徊する、寝たきりになる、両親がそんな風になったら困る…程度の認識しかありませんでした。

 

スコットランドの旅の主人公、丹野さんは2013年に39歳の若さで認知症と診断され、私が初めてお会いした3年前は42歳、明るく笑顔が素敵なイケメンで、とても認知症の本人(当事者と一般的には呼んでおり、患者という言葉は使いません。理由は本でも説明されています)だとは思えませんでした。丹野さんは認知症の診断後も仕事を続けながら、「認知症とともに生きる」にはどうすればよいのかを考え、認知症当事者がどのようにサポートしてもらいたいのか、どうすれば認知症になっても元気に明るく生きていけるのか、講演も含め幅広い活動を行っています。

 

認知症と言えば、「暗い」「大変そう」「自分とは関係のないこと、でも家族がなってしまったら介護はどうすれば?」というのが当時の私も含めた一般的な受け止め方で、「介護する側」の立場から見ていることがほとんどだと思います。私は丹野さんと出会い、またスコットランドの旅に同行することで、認知症当事者は一方的に介護されるだけの存在ではない、何もできない人ではない、適切なサポートがあれば社会の中で生き生きと活動できるということを知りました。

 

認知症は誰がなってもおかしくない、そうなったときに少しでも安心して暮らせる社会にするにはどうすればよいのか、通訳として当事者や、また当事者をサポートする人たちと出会う中で、深く考えさせられました。

 

今回ご紹介する「丹野智文 笑顔で生きる 認知症とともに」はスコットランドの旅の1年後に出版され、丹野さんが自分の言葉で、認知症と診断されてからどのように感じてきたのか、物忘れを補うためにどんな工夫をしているのか、どんな思いで認知症当事者を知ってもらう活動をしているのか、そしてスコットランドでの旅について語った内容をまとめた本です。重いテーマではありますが、決して暗くはなく、読むたびに元気づけられます。

 

元来、根が怠け者の私は決して好奇心キラキラというタイプではありません。新たな分野の仕事を引き受けた時は億劫に思うことも正直あります。でも、仕事を通じて「半ば強制的に」学んでいくことで、段々とその分野に興味が出て、「なるほど、そういうことだったのか!」と腑に落ちたり、また、今回のように深い気付きを得ることがあったりもします。通訳という仕事は、怠け者で視野の狭い私に新たな世界を広げてくれる実にありがたい仕事なのです。

 

 

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小宗 睦美(こむね むつみ)

関西学院大学文学部英文学科卒業後、ホテル勤務。その後、外資系製薬会社で秘書。退職後渡英し、英ブラッドフォード大学修士課程(ビジネス戦略・環境マネジメント専攻)修了。帰国後は通訳者・翻訳者並びに講師として活動中。

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