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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第37回:寺田容子先生(英語通訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、寺田容子先生ご紹介の『Shortest Way Home: One Mayor's Challenge and a Model for America's Future』(Pete Buttigieg著, Liveright Pub Corp, 2019年)です。

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5月の夕暮れ、駅前の広場のベンチで時間をつぶしていたところ、見知らぬ50代くらいの米国人男性から延々とconspiracy theoryを聞かされるという体験をしました。

 

最初は片言の日本語の世間話で、次第に、米国車をもっと買えとか関税万歳とかいう話になっていき、まどろっこしいので会話を英語に切り替えたら、さらにヒートアップ。チャキチャキのトランプ大統領支持者なのには早めに気づきました。米国政治情勢を早口で語った後は、トランプ氏が巻き起こしたbirther movement(オバマ前大統領はアフリカ生まれでイスラム教徒というデマ)、スティーブ・ジョブス生存説、クリントン一族の策略等々、代表的陰謀説が次々と繰り出されていきました。

 

放送通訳という仕事柄、こういうタイプの方がいることは知っているつもりでしたが、初の生遭遇に密かにやや興奮。にしても、駅前で出会う人間の中で、私はこの類の話の相手をするのにかなり適した職業だといえると思います。ニュースを伝える仕事のため、米国政治の詳細や要人発言、ゴシップまで重箱の隅をつつく毎日だからです。

 

米国政治といえば、次の大統領選挙は来年11月3日。手間暇かかることで有名な米国の選挙では、投票日の1年以上前から候補者討論会が始まり、予備選primaries & caucuses、党大会party convention、さらに民主党と共和党の候補者同士の討論会presidential debatesが何度もあって、ようやく本選挙general electionにたどり着きます。放送通訳は、選挙速報はもちろん、候補者討論会の生中継を同時通訳する機会も多くあり、党内情勢や各候補者の一挙手一投足を追っておくことがとても大切です。

 

民主党Democratsは現時点で20人以上が立候補を表明していて、6月末の第1回を皮切りに候補者討論会Democratic primary debatesをほぼ毎月行い、候補者を絞っていきます。

 

今回、ご紹介する本「Shortest Way Home」は、そんな乱立する民主党候補者の中で急速に頭角を現している最年少37歳、インディアナ州サウスベンド市のブティジェッジ市長の自伝です。バイデン前副大統領など知名度抜群の老練政治家を追い上げている人です。かなり分量がある本ですが、英語が平易で分かりやすく、市長の日常生活の描写も興味深く、どんどん読み進めることができると思います。米国の選挙事情や中央政局、地方政治の仕組みも垣間見ることができるでしょう。

 

同氏は、名門大卒のエリートで、公僕として尽くしたいという思いから20代後半で高給取りの仕事を辞めて海軍予備役に志願するとともに、29歳で故郷サウスベンドの市長に当選し、今に至ります。経済の立て直しで高い評価を受けました。

 

普段本を読まない私がこの本をアマゾンでポチったきっかけは、ペンス副大統領とのgay rightsを巡る舌戦でした。直接討論したわけではなくメディアを介しての議論です。同性愛を公表しているブティジェッジ氏は、ペンス氏のLGBTQコミュニティへの差別的態度を批判し、次のように述べて賞賛されました。

 

"If me being gay was a choice, it was a choice that was made far, far above my pay grade. That's the thing I wish the Mike Pence's of the world could understand, that if you have a problem with who I am, your problem is not with me. Your quarrel, sir, is with my creator."
(私がゲイなのはそう選択したからというなら、その選択は遥か上でなされたもの。世の中のペンスさん達に理解してほしいのは、そういうことだ。私が私であることが問題というなら、あなたが言い争うべき相手は、私の創造主である神であるはず。)

 

ペンス氏は共和党Republicansで、インディアナ州の知事を辞めて副大統領になった人。保守強硬派のリーダーで、聖書を”厳格に”守る宗教右派the religious rightであり、同性愛はconversion therapyで治療できると信じています。

 

二人のgay rightsを巡る対立は、知事時代の政策”Religious Freedom Restoration Act”に遡り、当時のやり取りが本著に詳しく書かれています。この州法は「宗教の自由回復法」と銘打った差別の合法化だと批判され、ペンス氏は全米から袋叩きにあう一方、同性愛を認めない宗教右派にはスター扱いされました。そのタイミングでの副大統領候補running mate指名により、トランプ候補は保守票を確保し、ペンス氏は針のむしろの知事職から副大統領に転身でき、渡りに船だったと書かれています。

 

先ほどの発言も含め、政治集会や対話集会中継での市長の発言を通訳していると、その頭の回転の速さと言語能力の高さに感銘を受けます。質問に直球で返しつつ自分の考える正義を効率的に、気の利いた表現で伝えていて、オバマさん以来の爽快感を覚えます。

 

ちなみにブティジェッジ氏は、市長就任後に休職して戦地に向かいました。帰国後人生を考え直したようで、この州法の成立後(その後修正案が通過)に同性愛を公表し、デートアプリでパートナーを探し、めでたく結婚しました。要領がよい人です。

 

ここまで言っておいてなんですが、正直、私は誰が勝とうがどうでもよいです。こだわりなし。できれば英語の分かりやすい人を希望。ブティジェッジ氏には、むしろ副大統領候補になってもらい、討論会でペンス氏と直接対決するのを見てみたいなとは思っています。

 

 

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寺田 容子(てらた ようこ)
東京外国語大学卒業。アイ・エス・エス・インスティテュート放送通訳科で学び、2001年より放送通訳者として稼働を始める。現在は、NHK、CNN、BBC、その他各テレビ局にて、報道全般、記者会見、スポーツ、米大統領選挙報道など、多岐にわたるテレビ放送の同時通訳および時差通訳を中心に活躍中。

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