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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第31回:小林久美子先生(英語翻訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、小林久美子先生ご紹介の「ポール・オースターが朗読するナショナル・ストーリー・プロジェクト」(ポール・オースター(編集), 柴田元幸(翻訳), アルク, 2005年)です。

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銀行勤めをしている頃は、読む書物は仕事関連の記事や文書類が中心でしたが、退職して、翻訳の仕事を始めてからは、まとまった時間がとれるようになり、読書のジャンルも広がりました。今回皆さんにご紹介したい本は、「ポール・オースターが朗読するナショナル・ストーリー・プロジェクト」です。ポール・オースターは、アメリカ合衆国東部のニュージャージー州出身のユダヤ系アメリカ人です。詩や小説だけでなく、映画の脚本作成やエッセイ等、実に幅広いジャンルで創作活動を行っている作家です。


まず、私がこの本に興味を持ったのは、この本が生まれたた経緯です。1999年、米公共ラジオ(National Public Radio)に出演していたポールは、ラジオ局から、定期的に番組に出演し、ストーリーを提供してほしいと頼まれます。どうしようかと考えている彼に、彼の妻は、“You don’t have to write the stories yourself. Get people to sit down and write their own stories. They could send them in to you, and then you could read the best ones on the radio.”といいます。この一言に動かされ、彼は、ラジオ番組のリスナーに、リスナー自身の人生の体験談を投稿してくれるようにと呼びかけ、集まった投稿を、彼が朗読するというナショナル・ストーリー・プロジェクトを始めるのです。実にユニークな発想でしたが、全米から、5000通を超える投稿が集まり、ポールは番組で投稿者の人生の物語を朗読します。


この本は、その5000通の中から、18の物語が選ばれ、英文、翻訳文、そしてポールの朗読(CD)が納められています。私がおすすめしたいのは、英文、翻訳文に目を通す前に、まず、ポールの生の声による物語を聴いてください。時に早口となる彼の英語は、アメリカ東部出身でブルックリンの居住者であることを感じさせます。低音で、臨場感にあふれる朗読に、聴き手は心をぐいぐいとつかまれ、物語に吸い込まれます。投稿された物語は、投稿者自身の真実の物語です。投稿者の様々の生き様に触れ、胸が詰まり、涙するような思いや、神秘的な感動など、聴いた後は豊かで、力を得た気持ちになります。物語の英語は決して難しくありません。また、翻訳も、英文同様、臨場感のある、たたみかけるような文章が圧巻です。


翻訳の仕事をしていると、英語を読む(黙読)・書くことに比重がおかれ、聴く・話すことが少なくなりがちです。しかし、英語の上達には、読む(黙読と音読)、書く、聴く、そして話す、この4つを常にバランスよく継続して実践していくことが非常に大切だと思います。目下、私は、聴く読書を楽しんでいます。皆さんも、いかがでしょうか?

 

 

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小林 久美子(こばやし くみこ)

ニューヨーク大学大学院(スターン・スクール)修了。外資系金融機関にて、シニアマネージャーとして人事、財務、オペレーション、およびM&A等の仕事に携わる。翻訳者として独立した後は、経験を活かして、株式会社翻訳センターの専属翻訳者として金融・IR分野の翻訳案件を担当している。アイ・エス・エス・インスティテュートでは金融・IR翻訳クラスを担当。

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