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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第29回 :望月暢子先生(中国語翻訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、中国語翻訳者養成コース講師、望月暢子先生ご紹介の「やさしい中国語で読む自伝エッセイ 雪花(音声DL BOOK)」(張 武静著, 樋口 裕子 (翻訳) , NHK出版, 2017年)です。

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みなさん、こんにちは。今日は私の大好きな本をご紹介します。画家・町田尚子さんの絵が印象的なこの本、なんとNHKのテキストです。ラジオ「レベルアップ 中国語」に連載された中国語エッセイ全18話に日本語訳と語句説明や時代背景の解説がつき、作者張武静さん自身の中国語音声がダウンロードできて、お値段はたったの1000円。

 

文革初期の動乱でお父さんを亡くした幼稚園児の「静儿」=静(ジン)ちゃんを主人公とするこのエッセイの魅力は、日本語訳と解説を担当された樋口裕子さんの「あとがき」に余すところなく表現されているので、まずはそちらから引用させていただきますね。

 

「全18話はいずれも、エッセイと呼ぶには、あまりにもドラマチックであるかもしれません。……文化大革命という激動の時代を背景としたこの物語は、張武静さんがお母さんと過ごした幼いころ、つまり文革の日々の想い出をつづったノンフィクションなのです」。

「……何と言ってもこの物語を動かし、わたしたちを魅了するのは、お利口でかわいらしい静ちゃんの姿。文革なんてわかるはずもない小さな女の子が、自分が置かれた環境にめげずに、のびのびと生きていて、ときには知恵を働かせてお母さんを助けたり、クスッと笑わせてくれたりする、その天真爛漫な姿を張さんは生き生きと描き、当時の生活の細部をまさに驚くべき記憶力で再現しました。……この、心を揺さぶられる物語を原文で読む楽しさをどうぞ味わってみてください」。
 
たしかに、本文はテキストを超えて立派な文芸作品です。みずみずしい表現と、ハッと胸をつかれる小さな真実。でも、この本をお薦めする理由は中国語エッセイのすばらしさだけではありません。「解説」もまた単なる語学解説を大きく超えた、味わい深い読み物になっているのです。「解説」部分には、「静ちゃんの生活風景」と「鑑賞ノート」の二つのコーナーがあります。「静ちゃんの生活風景」では、たとえば「北海公园」や「纸窗」のように、ある語句について、それを当時の人たちが生活のどんなシーンにどのように取り入れていたのか、そこにはどんな思いが込められていたのかなどが生き生きと紹介されます。「鑑賞ノート」では、本文の情景描写やセリフを取り上げて、豊富な中国語表現の例示とともに時代背景やなぜそう言ったのかなどの掘り下げた解説が展開されます。とくに文化大革命時代特有の言葉は、解説を読むことで、この政治運動の嵐が人々の日常にどのように影響していたのかを実感することができます。 

 

この「解説」を読む前と後とでは、エッセイに対する理解の深さがまるで違ってくることに驚かれるでしょう。翻訳をするとき、読解はとても大切ですが、ここまで深く理解し登場人物一人ひとりの立場や気持ちに寄り添わなければ、本当に訳したことにならないのだ、ということを改めて思い知らされます。

 

また、翻訳の「表現」という点からもとても勉強になります。エッセイ本文は辞書がいらないぐらい平易な中国語で書かれていますので、表面的に言葉を置き換えただけでは、稚拙で浅い文章になってしまうのです。「つらい日々だからこそキラリと光り輝く人間のすばらしさ」(「あとがき」より)を読みやすい日本語で表現するにはどうしたらいいでしょうか?
 
試みに、「BOOK☆WALKER 」(https://bookwalker.jp/de868d3661-9a59-4aec-96a1-fdd1a0a3fbdb/)など試し読みができるサイトで表紙をめくってみてください。

2頁目の下のほうに書名の「雪花」にまつわる第6話「雪花窗」の一節が引用されています。
この一節、みなさんならどう訳しますか? 「雪花窗」という題名にも悩みますね。頭の中で訳文を考えたところで、頁をめくってみてください。樋口さんの、心が温かくなる名訳を読むことができます。思わずうなること請け合い。

 

この本は、易しく見える文章を文学作品にふさわしい水準に訳し上げるための格好のテキストです。日本人の方々だけでなく、文革が遠い遠い出来事になってしまった若い世代の中国人のみなさんにもぜひ手に取っていただきたいと思います。

 

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望月 暢子(もちづき のぶこ)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。上海に2年留学。帰国後、中国の近現代史・内政・外交を中心とした論文・資料を中心に、ビジネス、文芸、映像などの翻訳に従事する。共訳書『しあわせ中国:盛世2013年』(陳冠中著、新潮社)を出版。

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