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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第23回 : 宮坂聖一先生(英語翻訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、宮坂聖一先生ご紹介の『論理哲学論考』(Tractatus Logico-Philosophicus)(ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン著、Chiron Academic Press)です。

 

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僕は本当に偶然に偶然が重なって翻訳者になったので、参考書とか翻訳者になるための本とかほとんど読まなかったんです。会社員時代に仕事でマニュアルとかプロポーザルを英訳したこと、あるいは契約書のチェックをしていたことといった実務経験を通じて得たことがほとんどで、これを頼りに業界に無理矢理押し入ったみたいなものです。まだ電子辞書もろくになかった時代ですから、タイミングにも恵まれたと言えそうです。逆に結構いい加減に覚えていたことも多かったので、いまさら気付いたり、得心がいったりすることも数知れず。でもそこが楽しい。偉くなってはいかんのです。

 

かくして机の回りは、いまだに買っては積んでおくばかりの参考書やら専門書やらで一杯。先日買ったのは河野一郎、「誤訳をしないための翻訳英和辞典+22のテクニック」(DHC)とか、伊藤和夫「予備校の英語」(研究社)とか。まだ読んでないけど。授業をやっていて思うのは、最近はすぐに役立つこととか、テクニックとかを教わりたいという人が増えてきたということ。僕なんかは、昔から翻訳の考え方とか姿勢とかを中心に教えてきたので、正直時代が変わったなあと思わないでもありません。大切なのはやっぱり基礎。昔、ニフティの翻訳フォーラム(もう石器時代みたいな話ですが)での合言葉は、「ペーパーバック50冊読んで、原稿用紙250枚訳してこい。話はそれからだ」だったような気がするんだけど。こういうのはもう古いんだろうなあ。どうも野球で言えば走り込みや素振りの部分がおろそかになっているんじゃないかと心配になるんですよね。

 

ちょっと待てい、お前こそ実践ばかりで、基礎やってないじゃないかとここでツッコミが入りそうですが、今日書こうと思ってるのは、僕にとってのその基礎の部分が何かという話。例えば、僕の友人の文芸翻訳者には、契約書の翻訳を勉強することで文法を徹底的にマスターしたという人がいます。あるいは写経といって、人の訳文をひたすら写して写して写しまくることで腕を磨いた人もいます。で、僕の場合、これは30代にまだプロとしての翻訳を始めたばかりの頃のことなんですが、とある本の勉強会やりました。それがヴィトゲンシュタインの「論理哲学論考」(Tractatus Logico-Philosophicus)。これは7つのパートに分かれているんですが、これを母校の学生さんたちと夏休みにひたすら講読したわけです。これがまあ分からない。分からないことしか分からないというくらい分からない。分からないから、結局、言葉一つ一つの意味に戻るしかないんですね。

 

たとえば、本文の冒頭は、

 

1 The world is everything that is the case.

 

1.1 The world is the totality of facts, not of things.

 

こんな感じ。で、これを理解するために、英英辞典とかを使って、とにかく一語一語の意味に立ち戻って理解しようとするわけです。言葉を再定義すると言っても良い。それまでいい加減に使ってきた言葉を一つ一つ、よーく考えて自分なりに理解していく。それしかこれを理解する方法がないと思ったわけです。fact という言葉にしても、フランス語の fait、あるいはラテン語の factum といった言葉の由来から考えていく。こういうのを夏休みに狭い部室で4時間やってたりしました。恐ろしいことに4時間やって1語しか分からない。でもこの経験が今を作ったといっても言い過ぎじゃないと思うんですね。ということで、僕がお勧めはしないけど、でも読んでみて欲しい本はこれです。濫読・積ん読もいいですが、たまには一冊の本と徹底して向き合ってみたらどうでしょう。
 

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宮坂 聖一(みやさか せいいち)

株式会社ハマーン・テクノロジー代表取締役。コンピュータマニュアル、A/V機器などのテクニカルなものから、政治経済、映画台本、歌詞対訳まで、硬軟問わず幅広く手がける。アイ・エス・エス・インスティテュートでは、英語翻訳者養成コース、総合翻訳科「実践実務科」クラスを担当。

 

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