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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第17回 : 貝塚峰子先生(英語通訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、貝塚峰子先生ご紹介の『不実な美女か貞淑な醜女か』(米原万里著、新潮文庫、1997年です。

 

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「通訳者」と言えば、言語が通じ合わない人たちの間でコミュニケーションが取れるように、それも、まるで異なる言語で話が通じ合っているかと錯覚されるくらいスムーズに会話が進むよう橋渡しをする、いわば「黒子」だとの例えをよく聞きます。黒子ゆえに目立ってはいけない存在なのです・・・が、私の知る限り、この「通訳」という職に就いた人には、実に個性の強い人が多い。中でも、私の中に強烈に印象に残っている通訳者が、米原万里さん。実は、惜しい事に、すでに故人なのですが、第一線で活躍していらした、ロシア語の同時通訳者でした。さらに凄い事に、米原さんは、作家・小説家でもいらした才女なのです。優秀な通訳者だけに、言語力・表現力が極めて高かったのでしょうが、決して、それだけではありません。「黒子」であるはずの通訳者の枠だけに収まりきらない、何とも興味深い「人間力」があった方でした。

 

ロシア語と英語という担当言語の違いはありましたが、私は、幸運なことに、一度だけ、米原さんが通訳をされる現場に同席させていただいた事があります。ノーベル賞受賞者を日本に招き、様々なテーマの下で講演や意見交換をしていただく「ノーベル・フォーラム」で、まだ「同時通訳者」としては半人前とも言えなかった私にも、少し荷が軽めの、夕食会でのウィスパリングの仕事が与えられた時のことです。夕食会には、その年のフォーラムに招待された受賞者が集うのですが、その年は、なんと旧ソ連のゴルバチョフ元書記長(平和賞受賞者)が、講演者の一人でした。そのゴルバチョフ氏の隣には、すでにテレビなどでの露出があり、通訳者としても有名だった米原さんの姿がありました。私は、「ゴルバチョフ書記長だ!」というミーハーな気持ち以上に、世界の歴史の一頁を飾ったとも言うべき、そのゴルバチョフ氏の隣で、「通訳者」というより同行している家族のように会話を交わす米原さんに敬服するばかりでした。もちろんロシア語など一言も解さない私は、夕食会で自分の仕事をこなしつつ、米原さんが口を開くたびに、耳をダンボのように広げて、一言も聞き漏らすまいと聞き入っていました。そして、思ったものです・・・米原さんってオモシロイ!と。人を惹きつける話し方が、誰よりも上手なのだと実感しました。「黒子」でも、「人の関心を引く」訳出ができる通訳者なのです。言葉が相手に伝わらない話者にとって、これほど有難い通訳者はいないでしょう。自分はどんなに頑張っても、意思疎通ができないのに、米原万里さんという通訳者を通せば、相手が惹きつけられるのですから。

 

今回、ご紹介する本は、その米原さんの著書で「不実な美女か貞淑な醜女か」。タイトルからは、なかなか内容が想像しにくいですが、この本には、通訳者なら誰しも、大なり小なり、いいえ、遅かれ早かれ感じるジレンマが、通訳者の苦労・苦悩・やり甲斐と共に、面白おかしく、ご本人の経験を元に描かれています。でも、そこは、言葉の魔術師が書いた本ですから、単なる経験談ではなく、もう抱腹絶倒の展開で書かれています。果たして、通訳者は「多少正確さに欠けても、訳出が美しければ良い(=不実な美女)」のか、「起点言語に忠実に訳してあれば、ぎこちない訳でも良い(貞淑な醜女)」のか?・・・この答えは、是非、米原万里さんの著書を読んで、通訳者の方も、通訳者を目指す方も、自分で見出していただきたいと思います。

 

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貝塚 峰子(かいづか みねこ) 
フリーランス通訳者。放送通訳を中心に稼働中。また、テレビ局の国際共同制作番組のコレスポンデンスや契約書、脚本の翻訳なども担当。放送通訳以外にも、ファッション・スポーツなど、様々な分野でセミナー・会議通訳者としても活躍中。子供から大学生を対象にした英語のレッスンから企業向け通訳研修まで、豊富な指導経験を持つ。アイ・エス・エス・インスティテュートでは東京校「基礎科」および横浜校「入門科」を担当。

 

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