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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第11回 : 七海和子先生(中国語通訳)
評価:
村上 春樹,柴田 元幸
文藝春秋
¥ 799
(2000-10)


先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、中国語通訳者養成コース講師、七海和子先生ご紹介の翻訳夜話」(村上春樹/柴田元幸著、文春新書、2000年)です。

 

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村上春樹と柴田元幸の共著。「翻訳夜話」の名の通り、翻訳の技法について書いた本ではなく、両氏の翻訳に対する思い入れがこれでもか、これでもかと語られている肩の凝らない翻訳談義です。本書の大部分はフォーラムの質疑応答となっており、参加者はそれぞれ東京大学の柴田教室の学生、翻訳学校の生徒、すでに訳書のある翻訳家という顔ぶれなので、同じフォーラム形式とは言え質疑応答の内容はまったく違います。

 

必見は、章と章の途中に挟まれる「海彦山彦」での両氏の競訳です。レイモンド・カーヴァーとポール・オースターという作家の同じ短編小説を両氏がそれぞれに訳しています。


この競訳を十分に楽しんだ後でやってくるのが、前述のすでに訳書のある翻訳家とのフォーラム「若い翻訳者たちと」の章で、ここではこの訳を巡った質疑が展開されます。参加者が中堅の翻訳者なのでとにかく質疑応答の内容が濃い!ここではあたかも「自分もこのフォーラムに参加しているのでは」と錯覚するほどの臨場感あふれるやりとりが繰り広げられます。「僕がこれを訳したときに、ずいぶん気になったことは覚えているんだけど、人称の問題ですね、『僕』にするか『私』にするかという問題」(P.183)、「翻訳するときは一つの仮面を被るというか、ペルソナを被るみたいなところがあって」(P198)や、「偏見のある愛情」(P.203)、「音声的なリアリティーと文章的な、活字的なリアリティー」(P.212)などなど、翻訳者の頭の中を覗き見るような話題にあふれていてドキドキ感を味わえます。

 

最後に「翻訳はサービス業」だという考えをお持ちの柴田元幸氏の言葉を引用しましょう。


「読者がいないと誰も食べてくれないのに一生懸命料理作るみたいなむなしさを感じると思う。読んでくれた人たちがおもしろかったと言ってくれるのはすごく励みになります。とにかく自分は、世の中に、とまでは言わなくとも少なくともこの人たちに対しては、害悪や不快ではなく快をばらまいたんだなと思えるのは、僕にとってすごく大きな意味があります。」(P.209)「どううまくサービスをするかを考えることが、僕にとっての遊びだってことになるのかな。それはだから、翻訳でも授業でも同じですね。(P.210)」

 

言語や翻訳・通訳に関わらず、言葉と向き合うことはどういうことなのかを考えさせてくれる、私にとっては大切な1冊です。
とても気軽に読めますが、心になにかを残してくれるこの本。興味のある方は是非手にとってみてください。
続編とも言える(内容はまったく異なりますが)「翻訳夜話2  サリンジャー戦記」もあります。こちらも大変楽しい本なので、本書を読み終えたら是非。

 

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七海 和子(ななうみ かずこ)
駒澤大学文学部国文学科卒業。大学卒業後、出版社勤務を経て、日本の物流会社の北京事務所にて自動車物流、倉庫管理を担当。ISSインスティテュートで通訳訓練を受け、現在はフリーランスの通訳者・翻訳者として稼働。ISSインスティテュートでは「基礎科2」を担当

 

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