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『ザ・通訳道』:徳久圭先生 (2)


質問: これまでの仕事での印象的なエピソードはありますか。

 どの仕事も印象深くて忘れることができません。

 他言語の状況はあまり詳しくありませんが、中国語の、それもフリーランスに限って言えば、通訳者の仕事は分野があまり細分化されていないようです。例えば、経済に関するセミナーの次はアイドルのインタビュー、その次は自動車工場の視察……というように、一人の通訳者がさまざまな業界の仕事を請け負うのが一般的です。

 しかも通訳者が呼ばれるような現場は、その業界で最先端の話題を話し合う場所であることが多いんですね。新しい情報や知見について、まだ相互理解が足りない、もっと情報を交換したいというときに、本来ならば部外秘なんだけれどもお互い言葉が通じないので通訳者を雇おう、と。つまり通訳者には、一般の人が参加できないようなシチュエーションに呼ばれて、時代の先端を直接肌で感じるという「役得」が与えられているわけです。

 私はまだまだ駆け出しですが、それでもこれまでにいろいろな場所で通訳の仕事をしました。地下に作られた特殊な巨大空間の中でステンレスの溶接について話したこともあれば、大勢のファンが熱い視線を送る女優の隣で「マスカラが『パンダ眼』にならないコツ」についてレクチャーしたこともあります。広大なプラント内を自転車で移動しながらトランシーバーと携帯電話を交互に持ち替えつつ仕事の指示を「遠隔通訳」したこともあれば、業界のフィクサーとおぼしき人物の私邸にうかがって非公式な談判をしたこともあります。

 私は根っからの文系人間ですので、物理や化学や数学や工学などがからむテクニカルな内容はあまり得意ではありません。ですから、そういう分野の仕事をする際には専門書を読み、インターネットで調べ、専門家に即席のレクチャーをしてもらうのですが、なにせその現場で一番の門外漢は私なのです。その私がその道の専門家になりかわってしゃべらなければなりません。先回もご紹介した米原万里さんの言葉を借りれば、いつも「諦めと自棄(やけ)っぱちと向こう見ずが団子になったような気分」で仕事に臨んでいました。

 ところが、どんな業界でも最先端の話題というのはとてもエキサイティングな内容なんですね。まだその業界に定論というものがなく、それを求めて言語の異なる人々が真剣に議論をするわけですから。しかもそこには人間が営々と積み重ねてきた智恵や技術が詰まっており、その凄さが全くの門外漢である私にも伝わってくるのです。これはとても知的好奇心を刺激される楽しい経験です。まさに役得と言ってよいと思います。

 もちろん実際には、そんな心躍る経験ばかりではなく、胃が痛くなるような「修羅場」もあります。あるスポーツチームの通訳をした時など、試合中にささいな反則から乱闘になってしまい、選手も審判もそれぞれが母語で一斉に怒鳴り散らして誰も通訳者の訳出など聞いちゃいない、という状況がありました(そりゃ、ま、そうでしょうね)。ある企業のレセプションでは、双方が鯨飲に馬食を重ねて盛り上がり、きわどい冗談の応酬をしあう場面にも遭遇しました。こうなるともう通訳者というよりは幇間(たいこもち)です。発言を訳すというより、何でもいいからとにかく面白いことを言って、相手を笑わせることに専念しなければなりません。相手が笑わなければ、すぐに座が白けてしまいますから。

 いかがでしょう。通訳者の仕事は面倒だと思われますか。それとも刺激的で面白いと思われますか。


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中国語通訳者養成コース講師 徳久圭(とくひさけい)

武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。出版社等に勤務後、社内通訳者、フリーランスの通訳者・翻訳者等を経て、現在日中学院専任講師、アイ・エス・エス・インスティテュート講師。

| 『ザ・通訳道』 | 11:17 |

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