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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第5回 : 徳久圭先生(中国語通訳)


先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、中国語通訳者養成コース講師、徳久圭先生ご紹介の「資料日本英学史2 英語教育論争史」(川澄哲夫著、大修館書店)です。

 

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明治以降の英語教育に関する文章を広範に集めた本です。英語のみならず、どの言語の学習者や通訳者・翻訳者にとっても示唆に富む文章が多いのでお勧めです。ネットの古本屋で、現在でも購入可能です。


目次を眺めるだけでもわくわくします。「英語を日本の国語に」とした森有禮の書簡に始まり、森鷗外、夏目漱石、芥川龍之介、柳田國男、坂口安吾、菊池寛らが外語を論じています。戦後まもなく「フランス語を国語に」と主張した志賀直哉も、漢字廃止を唱えた尾崎行雄もいます。

 
英文学者の中野好夫は、昭和23年に『英語を学ぶ人々のために』という文章を書いています。


「語学が少しできると、なにかそれだけ他人より偉いと思うような錯覚がある。くだらない知的虚栄心である」


正直に告白すれば、私にもこうした虚栄心はあると思います。きっと外語に対するコンプレックスの裏返しとして、虚栄心なり優越感なりが生まれるのでしょう。でも語学は、やればやるほどその深さが実感されて、「私は〇〇語ができる」などと軽々しく言えなくなるものです。「ネイティブ並み」とか「ペラペラ」という言葉も使えなくなります。


中野は「外国語の学習は、なにも日本人全体を上手な通訳者にするためにあるのではない」と書き、そのあとにこう続けます。


「それではなんだ。それは諸君の物を見る眼を弘め、物の考え方を日本という小さな部屋だけに閉じ込めないで、世界の立場からするようになる助けになるから重要なのだ。諸君が、上手な通訳になるのもよい。本国人と区別のつかないほどの英語の書き手になるのもよい。万巻の知識をためこむもよい。それぞれ実際上の利益はむろんである。しかし結局の目標は、世界的な物の見方、つまり世界人をつくることにあるのである」


敗戦を踏まえ、英語に携わる者として戦争を避けられなかったという自責の念があふれています。ここに言う「世界的な物の見方」とは、英語的な世界を通して、一般の日本人以上に日本を見つめる役割を己に課すということなのです。


「とにかく数からいえば、これだけ存在する英語関係者が、もう少しイギリスを知り、アメリカを究め、今少し自分の首や地位への考慮をはなれて物を言つていたら、よし日本の運命を逆転させる力はなかつたにせよ、もう少しは今にして後味のよい結果になつていたはずだ」


ここで語られているのは英語関係者ですが、私は一人の中国語関係者として、遠い過去についてというより、近くの未来に対する警句のように読めます。その上で中野は、これから英語を学ぼうとする戦後間もない頃の若い人たちにこう希望を述べます。


「英語を話すのに上手なほどよい。書くのも上手なら上手ほどよい。読むのも確かなら確かなほどよい。だが、忘れてはならないのは、それらのもう一つ背後にあつて、そうした才能を生かす一つの精神だ。だからどうかこれからの諸君は、英語を勉強して、流石に英語をやつた人の考えは違う、視野が広くて、人間に芯があつて、どこか頼もしいと、そのあるところ、あるところで、小さいながらも、日本の進む、世界の進む正しい道で、それぞれ生きた人になつているような人になつてもらいたい」


そして最後に、中野はこう述べて締めくくります。


「語学の勉強というものは、どうしたものかよくよく人間の胆を抜いてしまうようにできている妙な魔力があるらしい。よくよく警戒してもらいたい」


この資料集は「英語教育論争史」を扱っており、例えば現在の「グローバル化」に対応した早期英語教育をめぐる議論についても、通底する論争が明治以降めんめんと繰り返されてきたことが分かります。日本人は英語をはじめとする語学にどれだけ胆を抜かれてきたのでしょうね。

 

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徳久 圭(とくひさ けい)

武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。現在ISSインスティテュート東京校中国語通訳者養成コース通訳科1クラスを担当。
ブログ:インタプリタかなくぎ流 http://qianchong.hatenablog.com/
ツイッター:@QianChong

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