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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第20回 : 近藤はる香先生(中国語通訳)

 

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、中国語通訳者養成コース講師、近藤はる香先生ご紹介の『新樹の言葉』(太宰治著、『ろまん灯籠』角川書店、1955年初版)です。

 

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「君たちは、幸福だ。大勝利だ。そうして、もっと、もっと仕合せになれる。私は大きく腕組みして、それでも、やはりぶるぶる震えながら、こっそり力こぶいれていたのである。」

 

中学の時、夢中になって読んだ本に『モンテクリスト伯』(岩波文庫)があります。『巌窟王』とも呼ばれる作品です。非現実的な展開と超人的な主人公の能力に、思春期の私はどこか冷ややかで、可愛げのない読者でしたが、そんな私が「夢中になって読んだ」理由は、主人公の監獄での超人的な執着と結末の虚しさでした。


驚く方もいるかもしれませんが、実は私は「競争」が非常に苦手で、甲乙をつけられるのも、甲乙をつけるのも大嫌い、恐怖さえ感じます。しかし高校受験を控えたあの頃は、そんなきれいごとも言っていられず、「『競争心』が欲しい」、「せめて『○○高校に絶対受かりたい』という気持ちが欲しい」と悩み、『モンテクリスト伯』を読みながら、「すばらしい!恨みでも復讐心でも何でもいいから、死に物狂いになれる原動力が欲しい」と思ったものでした。そして、最後まで読み進めて襲われた空虚感。もやもやとしつつも、「不純な動機で得たものは、ただ空しいだけ」とスッキリしたのを覚えています。


冒頭に掲げたのは『モンテクリスト伯』の一節ではありません。太宰治の短編『新樹の言葉』の結びの言葉です。没落した良家の若い兄妹二人が、元々自分たちの住んでいた屋敷が火事で燃えるのを「二階にも火が回ったね」などと淡々と話しながら眺めているのを見て、主人公が心の中で叫んだ言葉です。恨みや妬みだけではなく、感傷さえもない兄妹。まさに無欲そのもの。そして、無欲だからこそ仕合せそうでした。この短編を読み、二人に憧れ、「何かを得ることが幸せなのではない。欲を捨てることが幸せなのだ」と、それ以来「こだわると生きづらい」を座右の銘に、欲を捨てる修練を人生としています。


幸い平和で豊かな時代に生まれ、復讐や恨みに苛まれることは少なく、「所有欲」や「競争心」という、扱いようによっては「向上心」に繋がるものが今の世の中の大多数の人の「欲」でしょう。しかし、私はそれも捨てたいと思っています。


きれいごとを言うようですが、学業も通訳・翻訳の仕事も、いい評価がほしい、もっとうまくなりたい、認められたい…などと思って取り組んだことはありません。気持ちと体がいつの間にか自然とそちらに向いていたから、ただ流れに乗ってやってきただけです。勿論「認められたい」「負けたくない」という気持ちが一切起こらなかったわけではありませんが、全く持続しませんでした。また、そういう気持ちで取り組むと結果も非常に悪く、意識して振り払うようにしていたのも事実です。


「通訳は黒子」です。ビジネスや文化交流、外交など非常に重要な場面で、要となる仕事をするにも関わらず、私たち通訳は永遠にその主体とはなりえません。自己顕示欲や競争心は絶対にタブーです。「黒子」――「無欲」になることが通訳としての私の追求です。


人間「欲」があるのが自然で、恐らくそれをうまくコントロールできれば問題ないのだと思います。自信ややる気に繋がるならば、「自己顕示欲」や「競争心」も否定はできません。ただ『新樹の言葉』を読んだ時の、あのスカッとした気持ち、天から光が差したような感覚は「無欲」も一つの力、何かを成し遂げるのに道は一つではないと教えてくれるような気がします。学業、仕事、人生において「無欲」になろうとすることが、私の力になっています。

 

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近藤 はる香(こんどう はるか)

横浜市立大学国際文化学部卒業。10年の中国留学を経て、帰国後フリーランス通訳者、翻訳者として稼働中。アイ・エス・エス・インスティテュートでは中国語通訳者養成コース基礎科1を担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第19回 : 寺田容子先生(英語通訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、寺田容子先生ご紹介の楽しく学べる「知財」入門』(稲穂健市著、講談社現代新書、 2017年)です。

 

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私は小説やフィクションにあまり興味がありません。世間で面白いといわれる文学があると、そんなに言うならと手に取ることがありますが、冒頭ですぐに退屈してやめてしまいます。あるいは直ちに最終章へ飛びます。

 

フィクションでも映画やドラマなら好き。では、単なる活字嫌いかというと、そうでもなく、実用書の類はよく読みますし、楽しんでいます。

 

ご紹介する稲穂健市さんの「楽しく学べる『知財』入門」もそうした実用書の1つです。知的財産権に含まれる著作権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などについて、東京五輪エンブレム騒動など話題の事案をふんだんに盛り込みながら、素人にも分かりやすく説明しています。

 

本来、専門性が極めて高い知財という難解なテーマですが、ユーモアに富んだリズムよい文章に冒頭から吸い込まれ、飽きる暇がないうちに最後まで読み終えると、自然と知財の正しい概念や5つの権利の違いなどを理解することができます。

 

通訳と何の関係があるんだと言われそうですが、大いに関係しています。

 

通訳の諸先輩方からよく指摘されるのが、幅広い教養を身につける必要性です。通訳がカバーする分野は幅広いため博学な人が優れた通訳になり、優れた通訳はさらに博学になっていくのを目前で見てきました。フリーランスで仕事をしていると“現場にいる自分以外全員専門家”という状況が多かれ少なかれあります。私の関わっている放送通訳という分野でも、オーディエンスはお茶の間の視聴者ですが、現場のスタッフはその道のオールスター。(わが身可愛さで詳細は伏せますが)付け焼刃の知識しかないために地雷原で無様に這い回る経験をしたことがあります。

 

そこで、自分の知らない分野を深く勉強したいと思った時に叩く最初の扉として、こうした入門書が便利だと思っています。

 

稲穂さんの知財本はいずれもそうなのですが、堅いテーマにするっと入っていける工夫を感じます。英会話のAEONとスーパーのAEONは両立するのか、「どこでもドア」の商標登録がドラえもん関係でない理由、マツモトキヨシは全国の松本清さんから承諾を取ったのか等々、親しみのある題材を愉快に取り上げながら、知的財産権の世界を明確に理解する実用的な知識を与えてくれます。残念ながらこの本だけで弁理士にはなれませんが、世の中の知財、模倣、パクリ問題に、少し違う角度からの関心を持てるかもしれません。

 

最近、実家で荷物を整理していた時に、その昔のISSの成績表を発見しました。一番下にある先生の一言は「日本語を豊かにするために本を読んでください」。

 

全くおっしゃる通りで笑えます。放送通訳をしていると時々出くわす“詩を朗読しだす人”
や“シェークスピアをそらんじる人”を何よりも恐れる、文学芸術音痴の今の私の姿を、先生は20年近く前にすでにお見通し。それでは、ということで、私の枕元には某ノーベル文学賞候補の作品が、課題図書として積まれています。私は文学がダメなのではない、せっかちで最後まで読まないだけなのだと信じ、来年のノーベル賞シーズンまでには何とか制覇して、いよいよ文学センスを開眼させたいです。

 

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寺田 容子(てらた ようこ)
東京外国語大学卒業。アイ・エス・エス・インスティテュート放送通訳科で学び、2001年より放送通訳者として稼働を始める。現在は、NHK、CNN、BBC、その他各テレビ局にて、報道全般、記者会見、スポーツ、米大統領選挙報道など、多岐にわたるテレビ放送の同時通訳および時差通訳を中心に活躍中。アイ・エス・エス・インスティテュートでは横浜校「基礎科」および「プロ通訳養成科1」クラスを担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第18回 : 名村孝先生(英語翻訳)

 

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、名村孝先生ご紹介の『ビジネス技術実用英語大辞典V5 英和編&和英編』(海野文男・海野和子著、プロジェクトポトス、2010年です。

 

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どんな辞書を使っておられますか。私がよく利用するのは、『ランダムハウス』、『COBUILD』、英訳時には『和英大辞典』に加えてコロケーションを調べるのに『英和活用大辞典』と『Oxford Collocations Dictionary』が重宝します。単語の語法を調べたい時には『ジーニアス』が役立ちます。

 

一般にはあまり知られていませんが、翻訳者仲間では必携とされる有名な辞書があります。『ビジネス技術実用英語大辞典』通称「海野さんの辞典」です。私の講座では最初の授業でこの辞書を推薦しています。

 

自らが翻訳者である海野さんご夫妻が丹念に集められた数多くの用例と良く考えられた訳文により、文脈に応じて微妙に変わる単語の意味が明示されています。英文学者が編纂した辞書が文学的な訳語を中心に載せているのに対し、この辞書はビジネスや技術の観点の訳語が満載であり、実務翻訳者にはなくてはならないものです。私自身も適切な訳語が思いつかず悩む時にはこの辞書の用例を順に見ていくと類似の表現を見つけて救われたことが幾度となくあります。商品価値の高い訳文を作るためには欠かせない辞書です。

 

また、英訳する時は和英辞典を使いますが、これが曲者で、和英辞典に載っている訳語をそのまま使うと誤訳になる場合があります。例えばLEDの「放熱」を和英大辞典で調べるとheat radiationしか載っていませんが、文脈によってはこれを使うと誤訳になります。「放熱」には2つの意味(積極的に熱を放射する場合と、不要な熱を放散する場合)がありますが、和英大辞典には前者しか載っていません。海野さん辞書には後者のheat dissipationも載っています。和英辞典を使う時には海野さんや英英辞典で裏を取る必要があります。

 

この辞典は一冊目の基本辞書としてではなく、他の英和/和英辞典の補助として使うものですが、同時に欠かせない一冊です。

 

紙版もありますが、ここはCD-ROMを選ぶべきでしょう。パソコンで辞書引きをしたほうが作業効率がはるかに高くなります。ロゴヴィスタ版もありますが、EPWING版をお薦めします。EBWinなどの閲覧ソフトを使って多数の辞書の串刺し検索ができるからです。現在V5のEPWINGは在庫切れのようですが、ダウンロード販売は行われているようです。

 

先日の翻訳フォーラムのシンポジウムに参加された海野さんご夫妻によると、現在V6を編纂中で2017年末に発売予定とのこと。発売を今から楽しみにしています。

 

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名村 孝(なむら たかし)
京都大学工学部電子工学科修士。電機メーカーに技術者として通算29年間勤務した後にフリーランス翻訳者となる。主に電気電子分野の特許明細書の日英翻訳を手掛けている。アイ・エス・エス・インスティテュートでは特許翻訳講座を担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第17回 : 貝塚峰子先生(英語通訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、貝塚峰子先生ご紹介の『不実な美女か貞淑な醜女か』(米原万里著、新潮文庫、1997年です。

 

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「通訳者」と言えば、言語が通じ合わない人たちの間でコミュニケーションが取れるように、それも、まるで異なる言語で話が通じ合っているかと錯覚されるくらいスムーズに会話が進むよう橋渡しをする、いわば「黒子」だとの例えをよく聞きます。黒子ゆえに目立ってはいけない存在なのです・・・が、私の知る限り、この「通訳」という職に就いた人には、実に個性の強い人が多い。中でも、私の中に強烈に印象に残っている通訳者が、米原万里さん。実は、惜しい事に、すでに故人なのですが、第一線で活躍していらした、ロシア語の同時通訳者でした。さらに凄い事に、米原さんは、作家・小説家でもいらした才女なのです。優秀な通訳者だけに、言語力・表現力が極めて高かったのでしょうが、決して、それだけではありません。「黒子」であるはずの通訳者の枠だけに収まりきらない、何とも興味深い「人間力」があった方でした。

 

ロシア語と英語という担当言語の違いはありましたが、私は、幸運なことに、一度だけ、米原さんが通訳をされる現場に同席させていただいた事があります。ノーベル賞受賞者を日本に招き、様々なテーマの下で講演や意見交換をしていただく「ノーベル・フォーラム」で、まだ「同時通訳者」としては半人前とも言えなかった私にも、少し荷が軽めの、夕食会でのウィスパリングの仕事が与えられた時のことです。夕食会には、その年のフォーラムに招待された受賞者が集うのですが、その年は、なんと旧ソ連のゴルバチョフ元書記長(平和賞受賞者)が、講演者の一人でした。そのゴルバチョフ氏の隣には、すでにテレビなどでの露出があり、通訳者としても有名だった米原さんの姿がありました。私は、「ゴルバチョフ書記長だ!」というミーハーな気持ち以上に、世界の歴史の一頁を飾ったとも言うべき、そのゴルバチョフ氏の隣で、「通訳者」というより同行している家族のように会話を交わす米原さんに敬服するばかりでした。もちろんロシア語など一言も解さない私は、夕食会で自分の仕事をこなしつつ、米原さんが口を開くたびに、耳をダンボのように広げて、一言も聞き漏らすまいと聞き入っていました。そして、思ったものです・・・米原さんってオモシロイ!と。人を惹きつける話し方が、誰よりも上手なのだと実感しました。「黒子」でも、「人の関心を引く」訳出ができる通訳者なのです。言葉が相手に伝わらない話者にとって、これほど有難い通訳者はいないでしょう。自分はどんなに頑張っても、意思疎通ができないのに、米原万里さんという通訳者を通せば、相手が惹きつけられるのですから。

 

今回、ご紹介する本は、その米原さんの著書で「不実な美女か貞淑な醜女か」。タイトルからは、なかなか内容が想像しにくいですが、この本には、通訳者なら誰しも、大なり小なり、いいえ、遅かれ早かれ感じるジレンマが、通訳者の苦労・苦悩・やり甲斐と共に、面白おかしく、ご本人の経験を元に描かれています。でも、そこは、言葉の魔術師が書いた本ですから、単なる経験談ではなく、もう抱腹絶倒の展開で書かれています。果たして、通訳者は「多少正確さに欠けても、訳出が美しければ良い(=不実な美女)」のか、「起点言語に忠実に訳してあれば、ぎこちない訳でも良い(貞淑な醜女)」のか?・・・この答えは、是非、米原万里さんの著書を読んで、通訳者の方も、通訳者を目指す方も、自分で見出していただきたいと思います。

 

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貝塚 峰子(かいづか みねこ) 
フリーランス通訳者。放送通訳を中心に稼働中。また、テレビ局の国際共同制作番組のコレスポンデンスや契約書、脚本の翻訳なども担当。放送通訳以外にも、ファッション・スポーツなど、様々な分野でセミナー・会議通訳者としても活躍中。子供から大学生を対象にした英語のレッスンから企業向け通訳研修まで、豊富な指導経験を持つ。アイ・エス・エス・インスティテュートでは東京校「基礎科」および横浜校「入門科」を担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第16回 : 塚崎正子先生(英語翻訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、塚崎正子先生ご紹介の『新 英和活用大辞典』(勝俣銓吉郎編、研究社、1939年)『新編 英和活用大辞典』(市川繁治郎他編、研究社、1995年)です。

 

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これは辞書ですが、私にとっては英語の道を志すターニングポイントとなった思い出深い「本」です。思い入れの深さから、担当しているレギュラーコースや短期コースの初回オリエンテーション時に、いつも熱く語ってしまいます。

 

この「本」との出会いは衝撃的でした。英語に興味を持ち始めた高校生の頃、自宅の書棚の片隅で見つけた、かび臭く、角がすり切れた分厚い辞書。中身を見ると、見慣れた日本語表記とは明らかに違う、「てふてふ」なんていう表記も!? そうです、旧仮名遣いで書かれていたのです(ちなみに、「てふてふ」は「ちょうちょう(蝶々)」のことです)。それ以上に不思議だったのは、ページをめくると短い例文だらけで、普通の辞書と比べて訳語があまり記載されていません。使い方すら分かりませんでした。

 

その辞書とは、1939年(昭和14年)、勝俣銓吉郎編集のもと出版された『新 英和活用大辞典』でした。一般の辞書とは少し異なり、名詞を中心としたコロケーション(連語)が紹介されています。例えば、「…に関する報告書を提出する」の英文を、report(名詞)を使って書きたいとします。この辞書でreportを引くと、reportを目的語とする動詞や、reportの後ろに続く前置詞が列挙されています。日本人が英訳をするときに、非常に助けとなる辞書です。

 

勝俣氏の優れたところは、コロケーションやコーパスなどという概念がまだない頃に、英語にはお互いに仲の良い単語があるということに気がつき、膨大な数の英文を収集し、それを整理してまとめ上げたこと。その収録用例数は実に20万!データが電子化された1995年版の『新編 英和活用大辞典』(市川繁治郎他編)が38万であることを考えると、これがどれほどの数かは想像できるかと思います。ましてや、コンピュータもインターネットもGoogleもない時代です。アナログでの作業は非常に時間がかかり、根気のいる作業だったと思います。

 

この古い辞書を見ていると、用例を通して当時の人の息吹が聞こえてくるような感じがします。また、編者はどういう考えのもとに、収録する用例を取捨選択したのだろうかと、想像するのも楽しいです。しかし、現実には言葉は生きています。新しい表現が生まれる一方で、廃れてしまった表現もあるでしょう。事実、新編になった段階で、当初の用例の半数以上が削除されたと聞いています。さらに言えば、新編ですら20年以上前ですから、時代遅れなところもあるでしょう。ただ、当時の編集者たちが注ぎ込んだ情熱は、決してあせることはないでしょう。

 

『新 英和活用大辞典』は、翻訳の仕事を始めた頃、私をいつも助けてくれた辞書ですが、それ以上に、私に強烈なパワーを持って「英語の単語」に対する興味をわき起こさせてくれた大切な一冊の「本」でもあります。

 

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塚崎 正子(つかさき まさこ)
お茶の水女子大学文教育学部外国文学科英文学(当時)卒業。電気メーカーに入社後、フリーランス翻訳者となる。移動体通信、コンピュータ、医用機器を中心とした分野に関する各種マニュアル、学術論文、契約書などの英日/日英翻訳を手がける。アイ・エス・エス・インスティテュートでは総合翻訳科・基礎科1&2レベルを担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第15回 : 藤岡みどり先生(英語通訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、藤岡みどり先生ご紹介の『なぜ戦争は伝わりやすく平和は伝わりにくいのか』伊藤剛著、光文社新書、2015年)です。

 

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よく言われるように、21世紀はインターネットの発達による情報革命の時代です。


私が学生の頃、英単語を調べるのに紙の辞書を使うのは当たり前でしたが、その後瞬く間に紙の辞書は電子辞書にとって代わられ、さらに今の学生さんたちは専用の辞書さえ持たず、スマートフォンで素早く検索しています。その姿は、前世紀後半を生きてきた私などにはまさに隔世の感があります。


21世紀になってわずか17年。考えてみれば、信じられないような変化のスピードです。


英単語に限らず、インターネットという道具が登場したことで、あらゆる情報検索の速度が大幅に上がったことは間違いありません。


では、大量の情報を容易に、かつ瞬間的に得ることが出来るようになったことで、私たちは一体何を得、何を失ったのでしょうか?


検索のための時間や手間が減少する一方で、最近は情報の不確かさが問題になっています。つまり、大量の情報を素早く手にしていても、その内容、意味、正確さを吟味できなければ、結局のところ、私たちは「何も知らない」のと同じなのです。


通訳とは、異なる言語を話す人たちの間に立ち、情報を伝達する手助けをする仕事です。通訳の現場では、情報の意味を正確に伝えることこそ重要であり、通訳者が意図的に意味を変えることは当然許されません。


しかし、だからこそ通訳者を志す者は、常に目の前にある情報の意味を考え、自分が立っている場所を吟味する必要があるのかもしれません。


本書『なぜ戦争は伝わりやすく、平和は伝わりにくいのか』……本来対語であるはずの「戦争」と「平和」が、なぜ情報が伝達される局面において等価でなくなるのか?その疑問を手掛かりに読み進めていくと大変興味深い展開が待っています。


本書を通訳者の立場から、「伝える」をキーワードにして読んでみれば、様々なヒントを見つけることができるでしょう。さらには「自分が手にしている情報とは何なのか」を今一度自分の頭で考え直すきっかけになるのではないかと思います。

 

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藤岡 みどり(ふじおか みどり)

高校時代のアメリカ留学を経て、東京外国語大学卒業後、商船会社、外資系企業に勤務。アイ・エス・エス・インスティテュート同時通訳科を経て、現在はフリーランスの通訳者として国際会議からアーティストのアテンドなど幅広い分野で活躍中。主に入門科、基礎科レベル、通訳訓練を応用した英語力強化クラスを担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 11:46 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第14回 : 今野由紀子先生(英語翻訳)
評価:
マーク・ピーターセン
岩波書店
¥ 799
(1988-04-20)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、今野由紀子先生ご紹介の「日本人の英語」(マーク・ピーターセン著、岩波新書、1988年)です。

 

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私の総合翻訳・基礎科のクラスではいろいろな本を紹介していますが、出番が一番多く、テキストのように使っているのがこの本。すっかりお馴染みの本なので、ここでとりたてて紹介する必要もないのかもしれませんが、特に愛用の英語参考書として、やはり一応挙げておきます。

 

「目から鱗が落ちる」という表現がありますが、この本はまさにその表現にぴったりの感動を与えてくれました。大多数の日本人英語学習者を悩ませている「冠詞」の問題に私も頭を悩ませていたとき、この本に出会って非常に大きな衝撃を受けました。著者マーク・ピーターセンは、「名詞にa をつける」という表現は無意味である。もし「つける」で表現すれば「a に名詞をつける」としかいいようがない、と言い放っているではありませんか。「ええっ!それってどういうこと?」なんという逆転の発想!冠詞の理解について、発想という根底を覆す意識革命を迫られたのです。

 

英語の発想と日本語の発想は異なるということは、安西徹雄先生の『英語の発想』(講談社現代新書)を読んで、ある程度は分かっているつもりでした。しかし実は、名詞と冠詞というこれ程単純で基本的な英語の土台についてすら、私は何も分かっていなかったのです。

 

それまで少なくとも20年間、英語を学び、英語を使って仕事をしてきた私にとって、これは単なる驚き以上のものでした。耐震性能が不安になって家の土台を調べるために床下にもぐってみたら、土台が壊れていたのを発見したというような話ではなく、そもそも土台が無かったという事実を発見したようなものです。一つの技能をきちんと身につけるためには、根本となる土台が大切です。上っ面の知識だけでは本物にはなり得ません。

 

最近、ネイティブが教える英語の語法指南書なるものが巷にあふれるようになりましたが、日本人の英語はその元祖、というか先駆けとなった本。マーク・ピーターセンもその波に乗って、その後続 日本人の英語』『実践 日本人の英語』『心にとどく英語などのシリーズを岩波新書から次々と出しており、全部読むと、冠詞、単数と複数、前置詞、動詞、助動詞、時制、受身、関係詞、副詞、接続詞、仮定法と、英文法の大部分を網羅しています。どれを読んでもいいのですが、どれか一つと言われたら、私はやはり最初に出た日本人の英語をお勧めします。


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今野 由紀子(こんの ゆきこ)
上智大学外国語学部英語科卒。米国ブリガム・ヤング大学留学。フリーランス翻訳者としてAT&T、JICA関連の翻訳に従事した後、翻訳担当として貿易商社および大使館に勤務し、長年、幅広い分野の実務翻訳に携わる。ISSインスティテュートでは「総合翻訳・基礎科1、2」を担当。

 

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丸今野由紀子先生が担当される集中コースのご案内丸

 四葉のクローバー【12月開講】集中コース
「基本からしっかり学ぶ はじめての実務翻訳訓練」
[東京校] 12/14・21・1/11・18・25・2/1 (木) 19:00〜 21:00(全6回)
[インターネット] 12/15〜 2/11 ※スマートフォン、タブレット端末対応

 集中コースは入学金・レベルチェックテストは不要です。
 受講特典あり!クラスの詳細、お申込みはこちらから:
 https://www.issnet.co.jp/courses/e_t_concentration.html#feature1

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第13回 : 藏持未紗先生(英語通訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、藏持未紗先生ご紹介の「NHKラジオ 入門ビジネス英語: 関谷英里子のビジネスに効く英単語101」(関谷英里子著、NHK出版、2011年)です。

 

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「problem」と「issue」の違いは何でしょうか?どちらも「問題」という意味で使われることの多い単語です。では、日本語で「問題」という言葉が出てきたときに、「problem」と「issue」のどちらの単語を使って訳出するのが適切なのか、どのように判断しますか?

 

通訳は言葉を訳すというよりも、オリジナルの言語で聞いた内容を頭の中に絵を描くようにイメージして、そのイメージをターゲット言語で表現し直す作業です。言葉を訳すことにとらわれ過ぎて、辞書に書いてある意味をそのまま1:1の訳語で覚えて、訳出の際にそのまま単語を自動変換して使おうとすると、不自然な日本語・英語の表現になってしまうことがあります。私も学校に通っていた頃は、通訳というよりも言葉を変換することに意識が行き過ぎて、不自然だと分かっていても、その訳語しか知らないため、他にどう表現して良いか分からず、かといって、その単語(情報)を無視するわけにもいかず、無理やり訳出に入れ込んでは、先生に「日本語がおかしい」「それは結局どういうこと?」と注意されたことは数知れずです。

 

また、1つの単語には多くの意味がありますから、辞書に書かれている意味をすべて覚えようとするのは大変ですし、辞書に書かれていない使われ方をすることもあります。したがって、単語の1:1の対訳を覚えるよりも、単語のイメージを理解する方が通訳者にとっては有益なことが多々あります。単語のイメージが分かっていれば、その単語と同じイメージを持つターゲット言語の単語を文脈に合わせて適切に選ぶことができ、より自然な表現で通訳することができるようになるのです。

 

NHKラジオ「入門ビジネス英語」のテキストを基にしたこの本は、そんな単語のイメージを説明してくれています。例文も多く記載されており、どういう状況で使われる言葉なのか、細かいニュアンスまで理解することができます。また、各単語の意味が英英辞典でどのように説明されているかも解説されており、より言葉のイメージを把握しやすくなっています。どれも決して難しい単語ではありませんが、英語のネイティブスピーカーが良く使う単語ばかりで、この101語をしっかりと自分のものにするだけでも、ネイティブっぽい表現ができるようになるはずです。また、ビジネス単語に絞ってあるので、通訳者を目指している人だけではなく、仕事で英語を使う人にとっても、明日からすぐに使える実践的な内容になっています。

 

単語に苦手意識のある方、冒頭の単語のニュアンスの違いの答えを知りたい方、表現をブラッシュアップしたい方など、ぜひこの本を手に取ってみてください。

 

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藏持 未紗(くらもち みさ)

高校時代に1年間アメリカに留学。国際基督教大学教養学部を卒業。2008年にISSインスティテュートに入学。在学中よりメーカー、製薬会社等で社内通訳者として経験を積む。同時通訳科を経て、現在はフリーランス通訳者として稼働中。ISSインスティテュートでは「準備科」を担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第12回 : 豊田実紗先生(英語翻訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、豊田実紗先生ご紹介の英⇔日 プロが教える基礎からの翻訳スキル」(田辺希久子、光藤京子著、三修社、2008年)です。

 

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今から10年ほど前、翻訳学校の通信講座を受講しながら実務翻訳の勉強をしていた際、その講座の講師がおすすめしてくれたのが、この本です。英日翻訳、日英翻訳それぞれについて個々に説明がなされており、特に初心者にとって難解なことを詳しく分かり易く説明してくれています。たとえば、英日翻訳では「無生物主語」や「品詞の転換」「訳し下げ(順送り)・訳し上げ(逆送り)」などについて、そして日英翻訳では「冠詞(定冠詞・不定冠詞・無冠詞の使い分け)」や「名詞の単数形・複数形の使い方」などについて説明がなされています。簡潔で分かり易い説明、そして数多くの例文が掲載されているので、とても理解しやすく、どんどん読み進めていける本です。また後半部分では、こちらも英日・日英翻訳に分かれていますが、実際のビジネスシーンで頻繁に目にするような文書の抜粋(英日翻訳では、政治や経済分野の新聞記事・雑誌記事など、日英翻訳ではビジネスメール文や案内文、プレゼンテーション資料など)が掲載されていて、「練習問題」そして「解答」の形で掲載されているので、読者が実際に問題を解いて取り組めるようになっています。そのため、とても実践的・実用的な内容になっている本です。


当時、翻訳学校の講座で実務翻訳を勉強していた際、はじめて習うことばかりで頭がパニック状態に陥っていたとき、翻訳スキルを一日でも早く身につけられるように、この本を無我夢中で読み込んでいたことを、今でもよく覚えています。その後、いよいよ翻訳会社のトライアルを受ける際、トライアルの問題が難しくて顔面蒼白になって大慌てだったときも、この本を読んで気持ちを落ち着かせながら、手探り状態でトライアル問題に取り組みました。その際に記載した蛍光マーカーや書き込んだ文字、貼りつけた付箋の数々など、本の中身は到底、他の方々にお見せできないほど、恐ろしい状態(いわば私の汗と涙の結晶)になっています(表紙のカバーもなぜか無くて、きっと紛失してしまったのだと思います・・・)。その後、翻訳会社のトライアルに徐々に合格できるようになり、翻訳会社から依頼される仕事に没頭していたので、この本の存在すら忘れてしまっていました。ところが、今から2年ほど前に、ISSインスティテュートで講師のお仕事をさせていただくことが決まったとき、この本の存在を思い出して、本棚からゴソゴソと探し出してやっと見つけて、この本を改めて読み返してみました。そして月日が経って、契約書などの法律文書の翻訳をさせていただくことが多くなったため、この本の存在をまた忘れてしまったものの、昨年末に本棚の大掃除をしていた際に、ひょんなことからこの本を発見。これまた懐かしく、そして嬉しい再会となりました。ちょうど今、また改めて読み返して、実務翻訳の基礎を再確認しているところです。


そんなわけで、私の人生にとって大きな意味を持っている、運命の一冊といえるような不思議な存在の本です。なにか困ったとき、迷ったときに読むと心が安定する、一種の精神安定剤のようなもの。きっと生涯にわたり、私にとって大切なパートナーと呼ぶべき本となることでしょう。そのように思っています。

 

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豊田 実紗(とよた みさ)
青山学院大学大学院 法学研究科(フランス法専攻)修士課程修了。現在は、フリーランス翻訳者として、おもに法律文書・行政分野の翻訳に携わっている。ISSインスティテュートでは、法務翻訳講座やチェッカートレーニング講座を担当。

 

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丸豊田実紗先生がご担当される集中コースのご案内丸

 四葉のクローバー【12月開講】集中コース
「基本からしっかり学ぶ はじめての契約書翻訳」
 [東京校] 12/8・15・22・1/12・19・26(金)19:00〜20:30(全6回)
 [インターネット] 12/9〜 2/5 スマートフォン、タブレット端末対応

 集中コースは入学金・レベルチェックテストは不要です。
 受講特典あり!クラスの詳細、お申込みはこちらから:
 https://www.issnet.co.jp/courses/e_t_concentration.html#feature5
 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第11回 : 七海和子先生(中国語通訳)
評価:
村上 春樹,柴田 元幸
文藝春秋
¥ 799
(2000-10)


先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、中国語通訳者養成コース講師、七海和子先生ご紹介の翻訳夜話」(村上春樹/柴田元幸著、文春新書、2000年)です。

 

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村上春樹と柴田元幸の共著。「翻訳夜話」の名の通り、翻訳の技法について書いた本ではなく、両氏の翻訳に対する思い入れがこれでもか、これでもかと語られている肩の凝らない翻訳談義です。本書の大部分はフォーラムの質疑応答となっており、参加者はそれぞれ東京大学の柴田教室の学生、翻訳学校の生徒、すでに訳書のある翻訳家という顔ぶれなので、同じフォーラム形式とは言え質疑応答の内容はまったく違います。

 

必見は、章と章の途中に挟まれる「海彦山彦」での両氏の競訳です。レイモンド・カーヴァーとポール・オースターという作家の同じ短編小説を両氏がそれぞれに訳しています。


この競訳を十分に楽しんだ後でやってくるのが、前述のすでに訳書のある翻訳家とのフォーラム「若い翻訳者たちと」の章で、ここではこの訳を巡った質疑が展開されます。参加者が中堅の翻訳者なのでとにかく質疑応答の内容が濃い!ここではあたかも「自分もこのフォーラムに参加しているのでは」と錯覚するほどの臨場感あふれるやりとりが繰り広げられます。「僕がこれを訳したときに、ずいぶん気になったことは覚えているんだけど、人称の問題ですね、『僕』にするか『私』にするかという問題」(P.183)、「翻訳するときは一つの仮面を被るというか、ペルソナを被るみたいなところがあって」(P198)や、「偏見のある愛情」(P.203)、「音声的なリアリティーと文章的な、活字的なリアリティー」(P.212)などなど、翻訳者の頭の中を覗き見るような話題にあふれていてドキドキ感を味わえます。

 

最後に「翻訳はサービス業」だという考えをお持ちの柴田元幸氏の言葉を引用しましょう。


「読者がいないと誰も食べてくれないのに一生懸命料理作るみたいなむなしさを感じると思う。読んでくれた人たちがおもしろかったと言ってくれるのはすごく励みになります。とにかく自分は、世の中に、とまでは言わなくとも少なくともこの人たちに対しては、害悪や不快ではなく快をばらまいたんだなと思えるのは、僕にとってすごく大きな意味があります。」(P.209)「どううまくサービスをするかを考えることが、僕にとっての遊びだってことになるのかな。それはだから、翻訳でも授業でも同じですね。(P.210)」

 

言語や翻訳・通訳に関わらず、言葉と向き合うことはどういうことなのかを考えさせてくれる、私にとっては大切な1冊です。
とても気軽に読めますが、心になにかを残してくれるこの本。興味のある方は是非手にとってみてください。
続編とも言える(内容はまったく異なりますが)「翻訳夜話2  サリンジャー戦記」もあります。こちらも大変楽しい本なので、本書を読み終えたら是非。

 

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七海 和子(ななうみ かずこ)
駒澤大学文学部国文学科卒業。大学卒業後、出版社勤務を経て、日本の物流会社の北京事務所にて自動車物流、倉庫管理を担当。ISSインスティテュートで通訳訓練を受け、現在はフリーランスの通訳者・翻訳者として稼働。ISSインスティテュートでは「基礎科2」を担当

 

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『柴原先生のワンランクアップの英語表現』
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