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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第36回:徳久圭先生(中国語通訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月は、中国語通訳者養成コース講師、徳久圭先生より『台湾海峡一九四九』(龍 應台(著), 天野 健太郎(翻訳) , 白水社, 2012年)『歩道橋の魔術師』(呉明益(著), 天野 健太郎(翻訳), 白水社, 2015年)『翻訳とは何か』(山岡 洋一(著), 日外アソシエーツ, 2001年)の3冊をご紹介いただきます。

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昨年十一月、翻訳家・天野健太郎氏の訃報に接しました。訃報はいつも突然のことですから今回も驚きましたが、今回の驚きはいつも以上でした。それは天野氏がまだ四十七歳という若さだったこと、そして直接お目にかかったことはないけれど、亡くなる直前まで精力的に翻訳書を出版され、様々なイベントにも登場されていたことをネットなどで知っており、そのご活躍をいつもまぶしい思いで仰ぎ見ていたからです。

 

はじめて天野氏の翻訳書に接したのは、龍應台氏の『台湾海峡一九四九』でした。私は原著の『大江大海一九四九』を読んでいたのですが、その日本語版である天野氏の翻訳は冒頭からとても印象的でした。例えば、こんな描写です。

 

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她才二十四歲,燙著短短的、時髦俏皮的鬈髮,穿著好走路的平底鞋,一個肉肉的嬰兒抱在臂彎裡

 

彼女は二十四歳。パーマをかけた短い髪はとてもファッショナブルだった。歩きやすいぺたんこの靴を履いて、腕には丸々と太った赤ん坊を抱いていた。
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「歩きやすいぺたんこの靴」! 私はこの訳文に、それまでの中国語翻訳の世界にはなかった何か新しいものを感じました。とはいえ、その感覚をはっきりと自覚したのはずいぶん後からで、当時は「ずいぶん自由闊達な訳だなあ」くらいにしか感じていなかったのかもしれません。それよりもまず、それまで全くお名前を知らなかった中国語の翻訳者が登場したことそのものがとても新鮮で。

 

その後も天野氏は次々に訳業を世に問うて行かれました。たまたま台湾の書店で目についた帯に惹かれて吳明益氏の短編小説集『天橋上的魔術師』を買い、その帯に惹句とともに載せられていた天野氏の翻訳書『歩道橋の魔術師』も買い求めました。

 

この翻訳も自由闊達です。例えば、冒頭のこんな描写。


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我家開的是鞋店,只是一個小毛頭對客人說:「你穿這雙鞋好看」、「這是真皮的」、「算你便宜一點」、「哎呀已經是最低價了啦」怎麼樣都不太真實,太沒有說服力了。

 

うちは靴屋だった。ただ、小うるさいガキがお客さんに向かって、「お似合いですよ」とか、「お安くしますよ」とか、「それじゃあ、うち儲けが出ないんで」とか言ったところで、どうにも遊んでるみたいで説得力に欠ける。
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“已經是最低價了啦”を「それじゃあ、うち儲けが出ないんで」と訳すのは、意訳と言ってしまえばそれまでなのですが、ある種、天野氏一流のユーモアというか、やや無頼派的というか、大胆不敵というか、それでいて繊細というか、とにかく氏独特のスタンスが表れているような気がします。そうしたスタンスは例えば“這是真皮的”という営業トークのひとつをすっぱり切り落としている部分にも見て取ることができます。

 

このような天野氏のスタンスは、後に公開されたふるまいよしこ氏によるインタビューで詳しくその背景と理由を知ることができます。有料記事なので引用はさし控えますが、とにかく面白いインタビューです。翻訳や語学に興味がある方に、このたった数百円の出費を惜しむ手はありません。

 

https://note.mu/wanzee/n/n567b9d342c46

 

ここには天野氏の翻訳に対するスタンスだけではなく、日本における中国語文学の受容のされ方、あるいはもっと広く大きく台湾や中国の文化そのものの受容のされ方に対する、新たな世代の登場を見て取ることができます。

 

私は天野氏よりも若干歳が上ですが、ほぼ同じ世代というか年齢層に属します。このインタビューで天野氏がおっしゃっていることは、私が中国語を学んだり教えたり、あるいは仕事として使ってきたりする中で折に触れて感じてきたことをかなり大胆な形で言語化されているように思えて、一気に引き込まれ、読んでいてとても興奮しました。

 

例えば、最近は若干状況が変わっていると思いますが、日本における中国語学習の、そのあまりにも強い「北京一辺倒」ぶりや、観光地や文化発信地としての台湾人気の一方であまりにも多くの方が一般常識としてさえ馴染んでいない台湾の近現代史など……。『歩道橋の魔術師』にしても、そうした台湾へ視点がより豊かに育まれていれば、より味わい深く読めること請け合いだと思います。

 

まさに天野氏はそうした私たち日本人の台湾に対する視点をもっと豊かにするために(ご本人はきっと「そんなたいそうなことじゃねえ」とおっしゃるでしょうけど)訳業に邁進されていたと思います。なのに、折しも『自転車泥棒』などまた新たな訳業が世に送り出されたそのタイミングで突然の他界。聞くところによると発見のむずかしい膵臓のガンだったそうですが、ご本人はさぞ無念だったと思います。

 

ロシア語の米原万里氏、英語の山岡洋一氏など、敬愛し私淑していた通訳者や翻訳者が急逝されたときにも少なからぬ衝撃を受けましたが、そこにまたもうお一人が加わってしまいました。とても残念です。その山岡洋一氏はその著書『翻訳とは何か』でこう書かれています。


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翻訳学校に通っても、一流の翻訳家に学べる確率はそう高くはない。ところが、書店に行けば、一流の翻訳家がみな、訳書という形で翻訳のノウハウを示してくれている。自分がほんとうに尊敬できる翻訳家を選んで訳書と原著を手に入れ、訳書を見ないで原著を翻訳していき、訳書との違いをひとつずつ確認していけばいい。この方法なら、翻訳学校で教えていない翻訳家からも、亡くなっていて学べる機会がないはずの翻訳家からも学べる。無料で添削を受けられる。一流の翻訳を真似ることができる。
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私たちはこれからも、天野健太郎氏の訳業に学ぶことができる。それだけは救いだと思います。

 

 

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徳久 圭(とくひさ けい)

武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。現在ISSインスティテュート東京校中国語通訳者養成コース通訳科1クラスを担当。
ブログ:インタプリタかなくぎ流 http://qianchong.hatenablog.com/
ツイッター:@QianChong
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評価:
龍 應台
白水社
¥ 3,024
(2012-06-22)

| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:15 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第35回:柴原早苗先生(英語通訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、柴原早苗先生ご紹介の『ニュー・ウーマン―いい仕事をして豊かに暮らす法 』(千葉 敦子著, 知的生きかた文庫, 1987年)です。

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「あなたの尊敬する人は誰ですか?」

 

みなさんはこのような問いを投げかけられたら、どのように答えますか?

 

「うーん、今までの人生で影響を受けた人・・・。先輩かなあ?それとも両親かな?」という具合に、尊敬する人物というのも人それぞれでしょう。

 

私には理想の人が3名います。いずれも女性であり、書籍を通じて知りました。

 

お一人目は精神科医の神谷美恵子先生。ハンセン病患者のために生涯を捧げました。「生きがいについて」「うつわの歌」(いずれもみすず書房刊)など数々の作品を残しています。人のために奉仕するとはどのようなことかが書籍からはわかります。

 

もう一人は手料理で悩める人を救った佐藤初女先生です。「ISSライブラリー」第一回の本稿でご紹介しました。私が初女先生の著作を知ったのは、我が子たちが小さかった時。そのころ私は子育てと仕事の両立に疲労困憊していました。常に悩み、いつもイライラしている自分がいたのです。偶然手に取った初女先生の本には、優しいことばがたくさん綴られていました。その文章に救われ、北海道・支笏湖で行われた「初女先生を囲むつどい」まで追っかけをしたこともあります。それぐらい当時の自分は追い詰められていたのでした。

 

私が尊敬する3人目はジャーナリストの千葉敦子さん。留学経験もなく、国内育ちであるにも関わらず、自らの努力で英語力を極め、日本について世界に発信していたのが千葉さんでした。非常にバイタリティ溢れる方でしたが、惜しくも乳がんで若くして亡くなられています。

 

今回ご紹介するのは千葉さんが綴った「ニュー・ウーマン いい仕事をして豊かに暮らす法」(知的生き方文庫、1987年発行)です。学生時代にこの本を読んだ私は大いに衝撃を受けました。

 

日本で男女雇用機会均等法が制定されたのは1985年です。千葉さんはそれ以前から男性と平等に働くべく、多大な努力を払っていました。その一環として、日々の生活や時間管理、勉強などをどのように進めればより良い仕事ができるかを常に考えていたのです。そのヒントを惜しみなく披露しているのが本書です。

 

目次をめくると、「自分自身のマネジメント」「仕事と勉強」「住生活を豊かに」「食べることも大切」「キャリア・ウーマンの装い」「新しい人間関係を考える」という章が並びます。仕事術だけでなく、装いから日々の潤いに至るまでトピックは多岐にわたります。私はこの本を読み、読書方法、手紙の書き方、フード・プロセッサーの使い方、ファッション小物など、社会人として必要なことを学びました。今、本稿を執筆するにあたり改めて読み返していますが、30年経った今でも十分参考になるヒントばかりです。

 

千葉さんは乳がんと診断された後も精力的にジャーナリストとしての活動を続け、晩年は念願のニューヨークに拠点を移し、現地で闘病しながら最期を迎えました。享年46歳でした。千葉さんの文章はどれも力強く、読む者に勇気を与えてくれます。私は今でも心が弱くなると千葉さんの本を書棚から取り出し、活字に目をやることでエネルギーを得ています。

 

 

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柴原 早苗(しばはら さなえ)
放送通訳者。獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。「放送通訳者・柴原早苗のブログ」http://sanaeshibahara.blog.so-net.ne.jp/

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 13:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第34回:佐久間公美子先生(英語翻訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、佐久間公美子先生ご紹介の『翻訳問答 英語と日本語行ったり来たり』(片岡義男・鴻巣友季子著, 左右社刊, 2014年)です。

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翻訳者をめざす皆さんへ

 

翻訳の世界に身を置いてもう40年以上になりますが、今でも原文を前にどう訳そうか頭を抱えることがよくあります。

 

その原因を考えてみますと、大きく分けて2つありました。1つ目は、原文が読み解けていないとき。2つ目は、どうにも日本語にならないとき。皆さんも、日常この2つの間を揺れ動いて苦労しておられるのではないでしょうか?私たちでも同じように悩んでいます。決して勉強途上の皆さんだけではありません。心配しないでください。

 

ただ、どうも上の2つ目は1つ目に原因があるのではないかと思うことが多くなりました。2つ目ができないと、勉強を続ける自信を無くしがちですが、立ち止まってもう一度原文をしっかりと読み直し、論理的に文脈を整理する習慣をつけることをご自分に課してください。

 

言葉の意味を捉えるとはどういうことなのか、どのようにして文脈を読み解くのか、素敵な本を1冊ご紹介します。

 

『翻訳問答 英語と日本語行ったり来たり』(片岡義男・鴻巣友季子著, 左右社刊)

 

2人がよく知られた本の小さな段落を訳して、その訳し方を語り合います。翻訳者でなくても、つい惹き込まれる面白いやり取りを楽しめます。

 

皆さんはレイモンド・チャンドラーをご存知ですか? 1953年に刊行された『The Long Goodbye』があります。有名な探偵小説で訳者は清水俊二。日本語の原題は「ロング・グッドバイ」。これを片岡さんは「逢えないままに」、鴻巣さんは「さよならは一度だけ」と訳しました。翻訳とはことほど左様に人によって違ってきます。

 

二人の語り合いそのものも面白いのですが、私が一番心に突き刺さった片岡さんの意見をここでご紹介しましょう。

 

片岡:
文章は言葉が先頭から後ろに向かってひとつにつながっているのですから言葉をつなげばつなぐほど、先頭は前に向かって進んでいきます。この動きを止めてはいけません。そしてこの動きが書き手の論理なのです。<中略> 文章の論理をよく理解して、それに反しないように、日本語をあてはめる必要があります。

 

勉強というアプローチで読みたい方は、その小さな文章を先にご自身で訳してから、読み進められると何かのヒントを得られるかもしれません。

 

勉強を横に置いても、柔らかな春の1日、窓辺で読むのにぴったりの本です。

 

楽しんでください。

 

 

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佐久間公美子(さくま くみこ)
英語・仏語映像翻訳者。第一線の映像翻訳者として、『2001年宇宙の旅』、『時計仕掛けのオレンジ』他、数々の名画の字幕翻訳およびテレビドラマ、ドキュメンタリー、海外ニュースの映像翻訳を手掛ける。
アイ・エス・エス・インスティテュートでは英語翻訳者養成コース「映像字幕翻訳」クラスを担当。

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:08 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第33回:栗原恭子先生(英語通訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、栗原恭子先生ご紹介のWhat on Earth Happened?』(Professor Christopher Lloyd (著)Bloomsbury Publishing PLC, 2012年)です。

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英語通訳者養成コース本科3クラスを担当させていただくようになり、かれこれ10年が経とうとしています。私自身ISSの受講生でしたので、時が経つのは早いなと思うと共に、クラスの中で変わったなと感じることもたくさんあります。しかし通訳になるための勉強という点では変わらない部分もたくさんあり、今生徒さんが感じていることを、昔自分自身も同じように感じていたことも少なくありません。その中でも、最近考えさせられることが、いったい「専門用語」とは何だろう?というものです。

 

クラスの生徒さんから、特に科学分野の教材をやった後に、「この分野はあまり興味がなくて、専門用語が分からなくて全然訳せませんでした」という声がよく聞かれます。そのたびに果たしてそこに出てきているのは本当に「専門用語」と呼べるものなんだろうかと考えてしまいます。どこからが専門用語か、それは一般常識ではないのか、その境界は人それぞれだし、そう簡単な問題ではないのかもしれません。原文が英語である場合と日本語である場合とで感じ方は当然違ってくるはずです。

 

今回ご紹介したい本は、Christopher Lloyd著「What on Earth Happened?: The Complete Story of the Planet, Life and People from the Big Bang to the Present Day」という本で、こちらの原書は英語、また翻訳本として「137億年の歴史 宇宙がはじまってから今日までの全歴史」の2冊です。 これらの本は、文字通りビッグバンから現在に至るまで、地球レベルでその137億年の歴史を42のテーマで書かれたものです。先史時代であれば地学や生物学の話が中心になりますし、有史時代となれば世界の歴史を俯瞰しています。筆者は自分のお子さんのためにこの本を書き下ろしたということで、全体的に語り口調で大変読みやすくなっていますが、ある書評によると、まさに「専門用語」がたくさん出てくるため、辞書は手放せないとあります 。

 

さて実際中身を少し見ていくと、Corals, Jellyfish, Ammonites・・・このあたりですと、辞書なしに行けそうです。Trilobites, Sea scorpions・・・さて少し不安になってくるでしょうか?さらにHallucigenia, Opabinia, Lancelets・・・とくるとそれこそ専門家でない限り、確かにすらすらとは読み進めにくいかもしれません。

 

しかし、これは子供のために書かれた本です。英語圏の子供であれば、別の図鑑を見たりすることはあるかもしれませんが、この本を読んでいく過程でこれらの用語を覚えていくことでしょう。ですから、果たしてこれらを「専門用語」と言ってよいものかどうか…。

 

この答えを出すことは今回の目的ではないので、ここまでにしておこうと思いますが(実際に通訳の仕事に入ると「専門用語」とは何かは痛いほど分かることになります…)、もしかしたら、この本の内容はすべて、「一般常識」になってしまうかもしれません。


そして恐ろしいことに、日本の学校教育そして、ビジネスにおける英語学習では、この科学、そして歴史に関する英語はかなり抜けているのが現状です。興味のある方はぜひとも、原書、翻訳本の両方を読まれることをお勧めします。テーマごとに英語、日本語それぞれで読んでみても良いかもしれません。英語の基礎力強化、一般常識の強化になることと思います。私自身、仕事で急に関係のない歴史の話になりとても慌てた覚えがあり、それ以来歴史の本を英語で意識的に読むようにしています 。

 

 

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栗原恭子(くりはら きょうこ)

聖心女子大学英語英文科卒業、日本IBMにて営業系SEとして勤務。IBM在職中に英国留学、その後ISSに入学し、通訳科1(現「プロ通訳養成科2」)在籍中より、通訳の仕事を開始。IT関連の仕事を中心に通訳・翻訳業務に携わる。現在ISSインスティテュート本科3および1を担当。

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評価:
Professor Christopher Lloyd
Bloomsbury Publishing PLC
¥ 1,760
(2012-09-01)

| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第32回:本島玲子先生(中国語翻訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、中国語翻訳者養成コース講師、本島玲子先生ご紹介の『中国少数民族地区画集丛刊』シリーズ(民族出版社, 1985年)です。

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今回は、完全に個人的趣味なのですが、私の大好きな本を紹介します。

 

皆さん、中国の少数民族に興味はありますか?


私はもう30年くらい、ずっと少数民族の本を探して読んでいるのですが、今日はその中で、のめり込むきっかけになった写真集を紹介しようと思います。


これは中国で1985年に出版された『中国少数民族地区画集丛刊』シリーズ(民族出版社)で、「雲南」「貴州」「新疆」「青海」「吉林」「広西」など、地域ごとに少数民族を紹介してくれています。

 

30年前、まだまだ私は中国語を勉強中でしたが、同時に中国に対してどんどん興味が湧いていた頃で、そんな時にたまたま書店で手にしたものなんです。


少数民族が住んでいる土地、自然の風景、暮らし、文化などが美しい写真とともに紹介されていて、最初に見たときは民族衣装やその土地の風景の美しさに感動して、もっとひとつひとつの民族について詳しく知りたいと思いました。

 

写真集なので説明文よりも圧倒的に写真のほうが多く、中国語の勉強を始めたばかりの私にとっては写真がメインというのはとてもありがたかったのも事実で(笑)、当時は時間があればずっとこの本を眺めていました。

 

これがきっかけで、それからは時間があれば少数民族について書かれた本を探して読みあさっていました。

 

30年前というと、今のようにネットですぐ調べられるような便利な時代ではなかったので、ひたすら本を探して読むしかなかったんですよね。


でも、そのおかけで本当にたくさんの本との出会いがあって、あの時代の本の読み方も楽しかったと思います。

 

この写真集も少しずつ買い集め、当時は本棚に少しずつ増えていく写真集を眺めてニヤニヤしてみたり、一冊一冊を手に取っては時間も忘れて見入っていました。

 

そして現在も少数民族への興味は尽きず、今は民族固有の文字に興味があり、そちらの本を探しては読んでいます。

 

「中国」と簡単に一言で言っても、あれだけの広大な土地に56の民族が住んでいるのですから、こうして少数民族を知ることで、中国全体への理解も深まっているような気がします。

 

時には、皆さんもこのような(一見、勉強とは関係ないように見えるものでも)ゆっくり眺めてみてはいかがでしょうか。

 

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本島 玲子(もとじま れいこ)

國學院大學文学部文学科卒業。大学卒業後、高校で国語科教師として教壇に立ち、その後、翻訳者に。実務翻訳、映像翻訳など。日本語教師の経験もあり。
アイ・エス・エス・インスティテュートでは中国語翻訳者養成コース「本科1」を担当。

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:43 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第31回:小林久美子先生(英語翻訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、小林久美子先生ご紹介の『ポール・オースターが朗読するナショナル・ストーリー・プロジェクト』(ポール・オースター(編集), 柴田元幸(翻訳), アルク, 2005年)です。

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銀行勤めをしている頃は、読む書物は仕事関連の記事や文書類が中心でしたが、退職して、翻訳の仕事を始めてからは、まとまった時間がとれるようになり、読書のジャンルも広がりました。今回皆さんにご紹介したい本は、「ポール・オースターが朗読するナショナル・ストーリー・プロジェクト」です。ポール・オースターは、アメリカ合衆国東部のニュージャージー州出身のユダヤ系アメリカ人です。詩や小説だけでなく、映画の脚本作成やエッセイ等、実に幅広いジャンルで創作活動を行っている作家です。


まず、私がこの本に興味を持ったのは、この本が生まれたた経緯です。1999年、米公共ラジオ(National Public Radio)に出演していたポールは、ラジオ局から、定期的に番組に出演し、ストーリーを提供してほしいと頼まれます。どうしようかと考えている彼に、彼の妻は、“You don’t have to write the stories yourself. Get people to sit down and write their own stories. They could send them in to you, and then you could read the best ones on the radio.”といいます。この一言に動かされ、彼は、ラジオ番組のリスナーに、リスナー自身の人生の体験談を投稿してくれるようにと呼びかけ、集まった投稿を、彼が朗読するというナショナル・ストーリー・プロジェクトを始めるのです。実にユニークな発想でしたが、全米から、5000通を超える投稿が集まり、ポールは番組で投稿者の人生の物語を朗読します。


この本は、その5000通の中から、18の物語が選ばれ、英文、翻訳文、そしてポールの朗読(CD)が納められています。私がおすすめしたいのは、英文、翻訳文に目を通す前に、まず、ポールの生の声による物語を聴いてください。時に早口となる彼の英語は、アメリカ東部出身でブルックリンの居住者であることを感じさせます。低音で、臨場感にあふれる朗読に、聴き手は心をぐいぐいとつかまれ、物語に吸い込まれます。投稿された物語は、投稿者自身の真実の物語です。投稿者の様々の生き様に触れ、胸が詰まり、涙するような思いや、神秘的な感動など、聴いた後は豊かで、力を得た気持ちになります。物語の英語は決して難しくありません。また、翻訳も、英文同様、臨場感のある、たたみかけるような文章が圧巻です。


翻訳の仕事をしていると、英語を読む(黙読)・書くことに比重がおかれ、聴く・話すことが少なくなりがちです。しかし、英語の上達には、読む(黙読と音読)、書く、聴く、そして話す、この4つを常にバランスよく継続して実践していくことが非常に大切だと思います。目下、私は、聴く読書を楽しんでいます。皆さんも、いかがでしょうか?

 

 

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小林 久美子(こばやし くみこ)

ニューヨーク大学大学院(スターン・スクール)修了。外資系金融機関にて、シニアマネージャーとして人事、財務、オペレーション、およびM&A等の仕事に携わる。翻訳者として独立した後は、経験を活かして、株式会社翻訳センターの専属翻訳者として金融・IR分野の翻訳案件を担当している。アイ・エス・エス・インスティテュートでは金融・IR翻訳クラスを担当。

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:20 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第30回 :星智子先生(英語通訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、星智子先生ご紹介の『新装版 日本語の作文技術』(本多勝一著,  講談社, 新装版, 2005年)です。

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皆さんは自分が書く日本語の文章に自信が持てますか?今日は「日本語の文章力を上げたい」と思っている人にお勧めの一冊を紹介します。

 

本書との出会いは大学時代に遡ります。もっとも私が出会ったのは、正確には本書の前身である朝日文庫の『日本語の作文技術』です。著者・本多勝一氏の硬質でわかりやすい文章が好きだったことと、自分でももう少しマシな文章が書けるようになりたいと思っていたこともあって、書店で見かけて迷わず購入した記憶があります。『日本語の作文技術』は1976年に単行本が初版され、文庫版や著者再編集版へと姿を変えながら版を重ねたのち、2005年に『新装版』として本書が刊行されました。まごうかたなきロングセラーですね。初めての購入からずいぶん経ちますが、今も定期的に読み返す大切な一冊です。

 

本書の序文にもあるとおり、著者のいう作文は「読む側にとってわかりやすい文章を書くこと」を到達すべき目標としています。「文章をわかりやすくすること、これは才能というより技術の問題」であり「技術は学習と伝達が可能なもの」との論点に立ち、だれでも学習できるはずの「技術」としての作文について論じています。したがって本書は難しい文法書ではなく、日本語のシンタックスを俯瞰して分析し、どう書けばわかりやすくなるかを検証する、いわば技術書のようなつくりになっています。目次の一部を紹介しましょう。

 

第二章 修飾する側とされる側
第三章 修飾の順序
第四章 句読点のうちかた
第五章 漢字とカナの心理
第六章 助詞の使い方

 

著者は「技術」の最も重要な部分として「修飾の順序」と「句読点のうちかた」を重点的に扱っており、この二つさえ一応のレベルに達すれば文章は格段に良くなると請け合っています。本書で興味深いのは、いくつもの悪文を紹介しながら「わかりにくさ」の原因を究明し解決策を提示している点で、「修飾の順序」では四原則を、「句読点」(とくに読点)では二原則を挙げて丁寧に検証しています。そして実際の作文でこれらの原則を応用するのは難しそう…と絶望しかける読者に対し、つぎのようにエールを送ってくれます。

 

まず自分の書いた文章を読んでみて「おかしいな」と思ったら、そのときだけこうした原則を参考にすればわかるということである。まず原則を頭の中に覚えてそれから作文を考えるのではなくて、作文はどんどん自由に書いて、読み直してみて「おかしいな」と思ったときだけ、なぜおかしいのかを考えるときにこの原則を参考にしていただく、それだけのことである。(本文185P)

 

ところで、日本語と英語という二つの異なる言語と日々格闘している身にとっては、第二章の「修飾する側とされる側」も含蓄に富んでいます。ここでは、わかりにくい文の原因は往々にして「修飾・被修飾」の離れすぎにあるとしており、「わかりにくい悪文の例はよく翻訳にみられる」とギクリとする一文も。その一因は、「英語のように、主語が述語を強力に支配し、その結果補語が述語よりあとに延々とつながる構文を日本文に翻訳するときに、英語のシンタックスを日本語という別のシンタックスの中にそのまま押し込んでしまうこと」にあると論じています。論理的でわかりやすい翻訳文にするには、原文の意味をまず理解してから日本語のシンタックスで文を構築する力が求められることを改めて思わされます。

 

翻訳文なり作文なり、自分の書いた文章が「おかしい」ことに気づくには、日ごろから良質な日本文をたくさん読んで見識眼を鍛えておかなければなりませんね。

 

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星 智子(ほし ともこ)

9歳から16歳までニュージーランドで過ごす。成城大学文芸学部英文学科を卒業後、ホテルや観光業関連の団体に勤務。社会人4年目にして初めてISSの門を叩き、会社勤めのかたわら通訳訓練を開始する。同時通訳科在籍中にOJT制度を利用しながら徐々に仕事を始め、食品会社や化学メーカー等の社内通翻訳を経てフリーランスに。近年は文部科学省やUNESCO関連事業での通翻訳業務に携わる。アイ・エス・エス・インスティテュートでは本科3レベルを担当。

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:55 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第29回 :望月暢子先生(中国語翻訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、中国語翻訳者養成コース講師、望月暢子先生ご紹介の『やさしい中国語で読む自伝エッセイ 雪花(音声DL BOOK)』(張 武静著, 樋口 裕子 (翻訳) , NHK出版, 2017年)です。

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みなさん、こんにちは。今日は私の大好きな本をご紹介します。画家・町田尚子さんの絵が印象的なこの本、なんとNHKのテキストです。ラジオ「レベルアップ 中国語」に連載された中国語エッセイ全18話に日本語訳と語句説明や時代背景の解説がつき、作者張武静さん自身の中国語音声がダウンロードできて、お値段はたったの1000円。

 

文革初期の動乱でお父さんを亡くした幼稚園児の「静儿」=静(ジン)ちゃんを主人公とするこのエッセイの魅力は、日本語訳と解説を担当された樋口裕子さんの「あとがき」に余すところなく表現されているので、まずはそちらから引用させていただきますね。

 

「全18話はいずれも、エッセイと呼ぶには、あまりにもドラマチックであるかもしれません。……文化大革命という激動の時代を背景としたこの物語は、張武静さんがお母さんと過ごした幼いころ、つまり文革の日々の想い出をつづったノンフィクションなのです」。

「……何と言ってもこの物語を動かし、わたしたちを魅了するのは、お利口でかわいらしい静ちゃんの姿。文革なんてわかるはずもない小さな女の子が、自分が置かれた環境にめげずに、のびのびと生きていて、ときには知恵を働かせてお母さんを助けたり、クスッと笑わせてくれたりする、その天真爛漫な姿を張さんは生き生きと描き、当時の生活の細部をまさに驚くべき記憶力で再現しました。……この、心を揺さぶられる物語を原文で読む楽しさをどうぞ味わってみてください」。
 
たしかに、本文はテキストを超えて立派な文芸作品です。みずみずしい表現と、ハッと胸をつかれる小さな真実。でも、この本をお薦めする理由は中国語エッセイのすばらしさだけではありません。「解説」もまた単なる語学解説を大きく超えた、味わい深い読み物になっているのです。「解説」部分には、「静ちゃんの生活風景」と「鑑賞ノート」の二つのコーナーがあります。「静ちゃんの生活風景」では、たとえば「北海公园」や「纸窗」のように、ある語句について、それを当時の人たちが生活のどんなシーンにどのように取り入れていたのか、そこにはどんな思いが込められていたのかなどが生き生きと紹介されます。「鑑賞ノート」では、本文の情景描写やセリフを取り上げて、豊富な中国語表現の例示とともに時代背景やなぜそう言ったのかなどの掘り下げた解説が展開されます。とくに文化大革命時代特有の言葉は、解説を読むことで、この政治運動の嵐が人々の日常にどのように影響していたのかを実感することができます。 

 

この「解説」を読む前と後とでは、エッセイに対する理解の深さがまるで違ってくることに驚かれるでしょう。翻訳をするとき、読解はとても大切ですが、ここまで深く理解し登場人物一人ひとりの立場や気持ちに寄り添わなければ、本当に訳したことにならないのだ、ということを改めて思い知らされます。

 

また、翻訳の「表現」という点からもとても勉強になります。エッセイ本文は辞書がいらないぐらい平易な中国語で書かれていますので、表面的に言葉を置き換えただけでは、稚拙で浅い文章になってしまうのです。「つらい日々だからこそキラリと光り輝く人間のすばらしさ」(「あとがき」より)を読みやすい日本語で表現するにはどうしたらいいでしょうか?
 
試みに、「BOOK☆WALKER 」(https://bookwalker.jp/de868d3661-9a59-4aec-96a1-fdd1a0a3fbdb/)など試し読みができるサイトで表紙をめくってみてください。

2頁目の下のほうに書名の「雪花」にまつわる第6話「雪花窗」の一節が引用されています。
この一節、みなさんならどう訳しますか? 「雪花窗」という題名にも悩みますね。頭の中で訳文を考えたところで、頁をめくってみてください。樋口さんの、心が温かくなる名訳を読むことができます。思わずうなること請け合い。

 

この本は、易しく見える文章を文学作品にふさわしい水準に訳し上げるための格好のテキストです。日本人の方々だけでなく、文革が遠い遠い出来事になってしまった若い世代の中国人のみなさんにもぜひ手に取っていただきたいと思います。

 

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望月 暢子(もちづき のぶこ)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。上海に2年留学。帰国後、中国の近現代史・内政・外交を中心とした論文・資料を中心に、ビジネス、文芸、映像などの翻訳に従事する。共訳書『しあわせ中国:盛世2013年』(陳冠中著、新潮社)を出版。

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第28回 :津村建一郎先生(英語翻訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、津村建一郎先生ご紹介の『日本語から考える! 英語の表現』(関山 健治著, 山田 敏弘著、白水社、2011年)です。

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日頃、受講生の皆さんと翻訳(医薬翻訳)の勉強をしていて思うことは、皆さんの日本語の理解や表現がいささか乏しいことです。私たちはNative Japaneseですから「日本語は出来てあたりまえ!いまさら勉強しなくても…」と思っている方が多いようです。しかし、翻訳とは外国の文化を日本の文化に変換する事です。例えば、英語の「Good morning.」を和訳する際に「良い朝」と訳す方はいないでしょう。これでは文字を翻訳しているに過ぎません。英語文化圏ではどういう時に「Good morning.」と言うかというシチュエーションを理解し、それを日本の文化に当てはめることで、「おはようございます」と正しく翻訳出来るのです。


もうひとつ例を挙げましょう、国際会議で海外から無理難題を迫られた日本代表が発した一言「前向きに検討します」。通訳の方がこれを奇しくも「We will do our best.」と表現してしまい、その後大混乱に発展したとかしないとか…。この例も文化ではなく文字(言葉)を翻訳したのが原因です。日本語で「前向きに検討します」が使われるシチュエーションは、丁寧に言えば「あなたの言われたことは理解しました。(やるかどうかについては)持ち帰って考えさせてください。」と言う意味ですが、その真意は「やらないよ!」に限りなく近いのです。


反対に、日本語を英訳するときに気をつけなければならないのが助詞(てにをは)と省略という日本特有の文化です。学校では「〜は」が主語…と習いましたので、「あのレストランは、美味しい」を英訳して「That restaurant has delicious tastes.」!?!? 日本語の「〜は」の使い方は「〜についてこれから話をします」と言うことです。ですので、「あのレストランは、美味しい」の本当の意味は、「あのレストランについて言えば、出す料理がどれも美味しい。」ということで、翻訳者は助詞「は」の意味と省略「出す料理がどれも」をくみ取って「That restaurant serves delicious dishes.」としなければなりません。この様に、日本文で「〜は」が出てきますと、読者はその後に話題の展開があると思い、心の準備をします。和訳文で「〜は」に続いて「〜は」、「〜は」と来ると、読者は二重三重に心の準備が必要となり「なんて読みにくい文章だ!」となってしまいます。


文化を翻訳するとは、日本の文化がどうなっていて、相手の外国語と何処がどの様に違うかをちゃんと理解しておくことが重要です。

 

今回紹介する『日本語から考える! 英語の表現』は、文法だけからは見えてこない日本語の持つカルチャーを紹介し、それを英語で正しく表現するにはどうすれば良いかが紹介されています。

 

一例を示すと、条件や時間の表現となる「と」や「ば」、「たら」、「なら」がどのようはシチュエーションで使われているでしょうか?


1. 春になる花が咲く。 ← 恒常的な条件
2. 雨が降れば、お祭りは中止になる。 ← 一般的な条件
3. 飲んだら乗るな、乗るなら飲むな。 ← 「たら」は完了形で「その後」、「なら」は既定条件を意味します。

 

1番の「と」を英訳するときは条件と言うよりは時を表すと考えましょう。また、毎年繰り返されるような出来事を英語で表現する場合は「現在形」となります。

 

この本では、日本語が使われる具体的な和文を示した上でそのシチュエーションの意味・解説があり、続いて、それらを英文で表現する際の注意点が記載されています。


その他には「〜は」と「〜が」の違いとか、「〜た」の使い方など、24種類の日本語特有の文化(表現)が解説されています。また、挿入されているコラムも面白く「の」の使い方とか、日本語の「名詞」性質などが紹介されています。和文英訳だけではなく、英文和訳にも、さらには、通訳の際にも十分活用できる内容になっていると思います。


最後に、この本はシリーズになっていて、「日本語から考える」と銘打って、フランス語や中国語、ドイツ語、スペイン語なども冊子になっていますので、ご参照ください。

 

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津村 建一郎(つむら けんいちろう)
東京理科大学工学部修士課程修了(経営工学修士)後、およそ30年にわたり外資系製薬メーカーにて新薬の臨床開発業務(統計解析を含む)に携わる。2009年にフリーランスとして独立し、医薬翻訳業務や、Medical writing(治験関連、承認申請関連、医学論文、WEB記事等)、翻訳スクール講師、医薬品開発に関するコンサルタント等の実務経験を多数有する。アイ・エス・エス・インスティテュートでは医薬翻訳クラスを担当。

津村建一郎先生のブログ https://translator-patner.com/

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評価:
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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:16 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第27回 :飯岡慶枝先生(英語通訳)

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。
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今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、飯岡慶枝先生ご紹介の『マキアヴェッリ語録』(塩野七生著、新潮文庫、1992年)です。

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塩野七生といえば古代地中海世界を描き、幾多のベストセラーを出している作家だが、歴史小説からエッセイまでその作品を買って後悔することがまずない。その中で『マキアヴェッリ語録』はマキアヴェッリの著作や書簡から言葉を抜粋したもので、思想の要約や解説書ではないことから初めての読者にも読みやすくなっている。全体は君主篇、国家篇、人間篇の三部で構成されている。その一部をご紹介したい。

 

「君主にとっては、愛されるのと怖れられるのとどちらが望ましいであろうか。当然のことながら、ほとんどすべての君主は、両方とも兼ねそなえているのが望ましい、と答えるにちがいない。しかし、それを現実の世界で行使していくのは実にむずかしい。できないわけではないが、たぐいまれな力量の持ち主であることが要求される。それで、ほとんどの場合一方を選ぶしかないとなるのだが、わたしは、愛されるよりも怖れられるほうが、君主にとって安全な選択であるといいたい。なぜなら、人間には、怖れている者よりも愛している者のほうを、容赦なく傷つけるという性向があるからだ。」


「思慮に富む武将は、配下の将兵を、やむをえず戦わざるを得ない状態においこむ。古代の将軍は、人間の意欲というものは、必要に迫られてこそ充分に発揮されるものであることを知っていた。」(以上、君主篇)

 

「弱体な国家は、常に優柔不断である。そして決断に手間どることは、これまた常に有害である。」

 

「困難な時代には、真の力量をそなえた人物が活躍するが、太平の世の中では、財の豊かな者や門閥にささえられた者が、わが世の春を謳歌することになる」(以上、国家篇)

 

「力量に欠ける人の場合、運命は、より多くその力を発揮する」

 

「人間というものは、必要に迫られなければ善を行わないようにできている。」

 

「中ぐらいの勝利で満足するものは、常に勝者でありつづけるだろう。反対に、圧勝することしか考えない者は、しばしば、陥し穴にはまってしまうことになる。」

 

「いかなる種類の『闘い』といえども、あなた自身の弱体化につながりそうな闘いは絶対にしてはならない。名をおとそうがどうしようが、避けられるかぎり避けねばならない。このことを考慮しない、いわゆる強気は、害あって益ない愚行である」(以上、人間篇)

 

鋭い人間観察とストレートな表現に時々ドキッとする。なかにはあまりに有名になっている言葉もあるので、さして新味を感じないと思う方もいらっしゃるかも知れないが、仕事などで行き詰まったとき、思考を整理するのにマキアヴェッリの著作を参考にするという現代のビジネスパーソンの話を聞くと、その作品の息の長さに驚かされる。語録ではあっても、簡単なhow-to対策法ではなく、二者択一を超えた第三の道を模索する出発点としていまだ健在であることを示している。

 

マキアヴェッリの私的な生活についての記録は多くはないが、同じく塩野七生著の『わが友マキアヴェッリ』(中公文庫)が当時のフィレンツェ共和国の状況を伝えている。メディチ家、修道士サヴォナローラ、チェーザレ・ボルジア、そしてマキアヴェッリが書記官として仕えたピエロ・ソデリーニ大統領などとの具体的なエピソードを交えて、マキアヴェッリがその時代に向けていた視点が描かれると同時に、そのしなやかでユーモラスな人柄まで伝わってくる。権謀術数の権化のように捉えられがちなマキアヴェッリだが、その言葉の背景理解が深まり、語録とともにあわせて読みたい一冊である。

 

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飯岡慶枝(いいおか よしえ)
フリーランス通訳者。五輪誘致から、製造、教育、ビジネス一般まで幅広い分野で活躍中。
アメリカ留学後、ISSにおいて通訳訓練を開始。1997年からISS英語通訳者養成コース講師を務める。英語教授法修士号。

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