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ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第28回 :津村建一郎先生(英語翻訳)

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、津村建一郎先生ご紹介の『日本語から考える! 英語の表現』(関山 健治著, 山田 敏弘著、白水社、2011年)です。

 

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日頃、受講生の皆さんと翻訳(医薬翻訳)の勉強をしていて思うことは、皆さんの日本語の理解や表現がいささか乏しいことです。私たちはNative Japaneseですから「日本語は出来てあたりまえ!いまさら勉強しなくても…」と思っている方が多いようです。しかし、翻訳とは外国の文化を日本の文化に変換する事です。例えば、英語の「Good morning.」を和訳する際に「良い朝」と訳す方はいないでしょう。これでは文字を翻訳しているに過ぎません。英語文化圏ではどういう時に「Good morning.」と言うかというシチュエーションを理解し、それを日本の文化に当てはめることで、「おはようございます」と正しく翻訳出来るのです。


もうひとつ例を挙げましょう、国際会議で海外から無理難題を迫られた日本代表が発した一言「前向きに検討します」。通訳の方がこれを奇しくも「We will do our best.」と表現してしまい、その後大混乱に発展したとかしないとか…。この例も文化ではなく文字(言葉)を翻訳したのが原因です。日本語で「前向きに検討します」が使われるシチュエーションは、丁寧に言えば「あなたの言われたことは理解しました。(やるかどうかについては)持ち帰って考えさせてください。」と言う意味ですが、その真意は「やらないよ!」に限りなく近いのです。


反対に、日本語を英訳するときに気をつけなければならないのが助詞(てにをは)と省略という日本特有の文化です。学校では「〜は」が主語…と習いましたので、「あのレストランは、美味しい」を英訳して「That restaurant has delicious tastes.」!?!? 日本語の「〜は」の使い方は「〜についてこれから話をします」と言うことです。ですので、「あのレストランは、美味しい」の本当の意味は、「あのレストランについて言えば、出す料理がどれも美味しい。」ということで、翻訳者は助詞「は」の意味と省略「出す料理がどれも」をくみ取って「That restaurant serves delicious dishes.」としなければなりません。この様に、日本文で「〜は」が出てきますと、読者はその後に話題の展開があると思い、心の準備をします。和訳文で「〜は」に続いて「〜は」、「〜は」と来ると、読者は二重三重に心の準備が必要となり「なんて読みにくい文章だ!」となってしまいます。


文化を翻訳するとは、日本の文化がどうなっていて、相手の外国語と何処がどの様に違うかをちゃんと理解しておくことが重要です。

 

今回紹介する『日本語から考える! 英語の表現』は、文法だけからは見えてこない日本語の持つカルチャーを紹介し、それを英語で正しく表現するにはどうすれば良いかが紹介されています。

 

一例を示すと、条件や時間の表現となる「と」や「ば」、「たら」、「なら」がどのようはシチュエーションで使われているでしょうか?


1. 春になる花が咲く。 ← 恒常的な条件
2. 雨が降れば、お祭りは中止になる。 ← 一般的な条件
3. 飲んだら乗るな、乗るなら飲むな。 ← 「たら」は完了形で「その後」、「なら」は既定条件を意味します。

 

1番の「と」を英訳するときは条件と言うよりは時を表すと考えましょう。また、毎年繰り返されるような出来事を英語で表現する場合は「現在形」となります。

 

この本では、日本語が使われる具体的な和文を示した上でそのシチュエーションの意味・解説があり、続いて、それらを英文で表現する際の注意点が記載されています。


その他には「〜は」と「〜が」の違いとか、「〜た」の使い方など、24種類の日本語特有の文化(表現)が解説されています。また、挿入されているコラムも面白く「の」の使い方とか、日本語の「名詞」性質などが紹介されています。和文英訳だけではなく、英文和訳にも、さらには、通訳の際にも十分活用できる内容になっていると思います。


最後に、この本はシリーズになっていて、「日本語から考える」と銘打って、フランス語や中国語、ドイツ語、スペイン語なども冊子になっていますので、ご参照ください。

 

 

 

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津村 建一郎(つむら けんいちろう)
東京理科大学工学部修士課程修了(経営工学修士)後、およそ30年にわたり外資系製薬メーカーにて新薬の臨床開発業務(統計解析を含む)に携わる。2009年にフリーランスとして独立し、医薬翻訳業務や、Medical writing(治験関連、承認申請関連、医学論文、WEB記事等)、翻訳スクール講師、医薬品開発に関するコンサルタント等の実務経験を多数有する。アイ・エス・エス・インスティテュートでは医薬翻訳クラスを担当。

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:16 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第27回 :飯岡慶枝先生(英語通訳)

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、飯岡慶枝先生ご紹介の『マキアヴェッリ語録』(塩野七生著、新潮文庫、1992年)です。

 

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塩野七生といえば古代地中海世界を描き、幾多のベストセラーを出している作家だが、歴史小説からエッセイまでその作品を買って後悔することがまずない。その中で『マキアヴェッリ語録』はマキアヴェッリの著作や書簡から言葉を抜粋したもので、思想の要約や解説書ではないことから初めての読者にも読みやすくなっている。全体は君主篇、国家篇、人間篇の三部で構成されている。その一部をご紹介したい。

 

「君主にとっては、愛されるのと怖れられるのとどちらが望ましいであろうか。当然のことながら、ほとんどすべての君主は、両方とも兼ねそなえているのが望ましい、と答えるにちがいない。しかし、それを現実の世界で行使していくのは実にむずかしい。できないわけではないが、たぐいまれな力量の持ち主であることが要求される。それで、ほとんどの場合一方を選ぶしかないとなるのだが、わたしは、愛されるよりも怖れられるほうが、君主にとって安全な選択であるといいたい。なぜなら、人間には、怖れている者よりも愛している者のほうを、容赦なく傷つけるという性向があるからだ。」


「思慮に富む武将は、配下の将兵を、やむをえず戦わざるを得ない状態においこむ。古代の将軍は、人間の意欲というものは、必要に迫られてこそ充分に発揮されるものであることを知っていた。」(以上、君主篇)

 

「弱体な国家は、常に優柔不断である。そして決断に手間どることは、これまた常に有害である。」

 

「困難な時代には、真の力量をそなえた人物が活躍するが、太平の世の中では、財の豊かな者や門閥にささえられた者が、わが世の春を謳歌することになる」(以上、国家篇)

 

「力量に欠ける人の場合、運命は、より多くその力を発揮する」

 

「人間というものは、必要に迫られなければ善を行わないようにできている。」

 

「中ぐらいの勝利で満足するものは、常に勝者でありつづけるだろう。反対に、圧勝することしか考えない者は、しばしば、陥し穴にはまってしまうことになる。」

 

「いかなる種類の『闘い』といえども、あなた自身の弱体化につながりそうな闘いは絶対にしてはならない。名をおとそうがどうしようが、避けられるかぎり避けねばならない。このことを考慮しない、いわゆる強気は、害あって益ない愚行である」(以上、人間篇)

 

鋭い人間観察とストレートな表現に時々ドキッとする。なかにはあまりに有名になっている言葉もあるので、さして新味を感じないと思う方もいらっしゃるかも知れないが、仕事などで行き詰まったとき、思考を整理するのにマキアヴェッリの著作を参考にするという現代のビジネスパーソンの話を聞くと、その作品の息の長さに驚かされる。語録ではあっても、簡単なhow-to対策法ではなく、二者択一を超えた第三の道を模索する出発点としていまだ健在であることを示している。

 

マキアヴェッリの私的な生活についての記録は多くはないが、同じく塩野七生著の『わが友マキアヴェッリ』(中公文庫)が当時のフィレンツェ共和国の状況を伝えている。メディチ家、修道士サヴォナローラ、チェーザレ・ボルジア、そしてマキアヴェッリが書記官として仕えたピエロ・ソデリーニ大統領などとの具体的なエピソードを交えて、マキアヴェッリがその時代に向けていた視点が描かれると同時に、そのしなやかでユーモラスな人柄まで伝わってくる。権謀術数の権化のように捉えられがちなマキアヴェッリだが、その言葉の背景理解が深まり、語録とともにあわせて読みたい一冊である。

 

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飯岡慶枝
フリーランス通訳者。五輪誘致から、製造、教育、ビジネス一般まで幅広い分野で活躍中。
アメリカ留学後、ISSにおいて通訳訓練を開始。1997年からISS英語通訳者養成コース講師を務める。英語教授法修士号。

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 11:27 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第26回 : 張意意先生(中国語ビジネスコミュニケーション)

日漢機電工程詞典.jpg

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、中国語ビジネスコミュニケーションコース講師、張意意先生ご紹介の『日漢機電工程詞典』(機械工業出版社)です。

 

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日頃の通訳・翻訳訓練、語学力強化に役立つ、欠かせない参考書と言えば、まず挙げられるのは辞書だと思います。辞書は、分からない時に引く道具だけではなく、語彙を増やし、その温度差を体感し、知識を豊かにするよい教科書でもあります。通訳者・翻訳者、語学学習者にとって常に手元に置く、なくてはならない書籍です。しかも一冊ではなく、なるべく多く、特徴を持つものを揃えることが大事です。

 

専門分野はもちろんのこと、編集出版の時期が違う物や、修訂版など、それぞれの特徴、特に辞書によって異なる解釈を把握し、それに自分の経験と理解を加え、原語により近い意味の訳語をピックアップできるよう努力しなければならないと思います。

 

辞書を選ぶ時、いつも気をつけているのは以下のポイントです。

 

1)最新のもの:言葉は変化するものなので、新語や新しい意味を掴むために新しいものが出れば、手に入れたいものです。特に、改訂版や修訂版についてはどこをどのように改訂、修正したのかをチェックしています。
2)例文が多いもの:例文を読むことによって、より正確にニュアンスを把握することができます。
3)自分のカバーする専門分野以外でも、幅広く揃えることも大事です。同じ単語でも、分野によって、違う意味で使ったりしますので、とても参考になります。

 

さて、ここで、実務翻訳に役立つ一冊をご紹介したいと思います。
機械工業出版社より出版された「日漢機電工程詞典」です。

 

初回は1969年「日漢機電工業詞典」として出版、
1982年9月に「日漢機電工程詞典」と改名、修訂版
1983年に第2回修訂版
2004年1月に新編版

 

編集チームは中国社会科学院、北京工業大学、北京航空大学、北京化学大学、北京大学、清華大学など100以上の企業と団体からなり、中国第一機械工業部の科学大賞を受賞しています。

 

機械、電力電子、機器メーターと大きく分類し、飛行機、宇宙、船舶、航海、自動車、農業機器、建機、化工機械、半導体、電子技術、コンピューター、化学、金属材料、溶接、ボイラー、測量、品質管理、物理、数学、俗語まで、極めて実用性が高い一冊です。

 

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張意意
ビジネスコンサルタント。中国北京外国語学院卒業。証券会社を経て、現在、コンサルティング会社経営。現役通訳者、翻訳者としても活躍中。アイ・エス・エス・インスティテュートでは「ビジネスコミュニケーションコース」を担当。企業や業界のニーズを把握し、中日間のコミュニケーションを円滑に進めるために、受講生に最新の動向を紹介しながら、指導を行っている。

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:01 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第25回 : 青山久子先生(中国語通訳)
評価:
東京都総務局総合防災部防災管理課,東京都
東京都総務局総合防災部防災管理課
¥ 135
(2015)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、青山久子先生ご紹介の『東京防災』(東京都総務局総合防災部防災管理課  (著), 東京都 (著), かわぐちかいじ (寄稿)、2015)です。

 

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首都直下地震が30年以内に発生する確率は70%、南海トラフ地震は70〜80%と言われています。また、日本列島では地震のリスクのない場所は無いと言っても過言ではありません。大地震が発生すれば生活・交通・通信インフラが長期にわたり麻痺する恐れがあります。

 

『東京防災』は、東京都が2015年9月に、都内の全世帯に配布した防災用のハンドブックです。また、販売もされており、東京都民でなくても購入可能で、Kindle版は無料でダウンロードできます。災害に備えてどのような準備が必要か、発災時にどのような行動をとるべきか、また起こり得る各種災害について見やすい形でまとめられています。是非災害が起きる前に一度目を通しておかれる事をお勧めいたします。

 

「自助、共助、公助」という言葉を聞かれたことのある方も多いかと思います。「公助」とは発災後に自治体から提供される支援を指しますが、大規模災害においては自治体の機能が損なわれたり、インフラが損壊することにより、支援が被災地に届くまで1週間程度かかる事が想定されます。そのために必要なのが、自分で自分の身を守り、また地域コミュニティで助け合って公的な支援が届くまでの1週間を生き延びるということです。

以下、自助、共助のポイントをいくつか示したいと思います。

 

【自助】
・小さな笛(ホイッスル)を身に着ける。
携帯のストラップになるタイプの商品もあります。万が一地震で瓦礫の下敷きになったり、電車の事故などで下敷きになった際、声を出すよりも体力を使わずに助けを求められます。

 

・揺れを感じたら「潜れ!つかめ!よく見てろ!」。
落下物から身を守りやすい机の下などに潜り、机の脚をしっかりつかみ、周りの状況を観察しましょう。まずは自分の身を守り、火の始末はその後です。慌てて火を消そうとして怪我をしたり、煮物をかぶって火傷をする恐れがあります。都市ガスは震度5の揺れを感知すると自動的に弁が締まりストップします。

 

・家具の固定、ガラス飛散防止措置をとっておく。
家具が倒れ、ガラスの破片が飛び散ると、家屋に損壊がなくても家にとどまれなくなってしまいます。災害時には避難所生活と考えがちですが、避難所の生活条件は衛生面、安全面において劣悪です。出来る限り避難所に行かなくて済むよう、自宅を安全な環境に整えておきましょう。避難所に食料だけ貰いに行くという利用の仕方も可能です。

 

・自宅に十分な備蓄食料を用意する。
備蓄は1週間分と言われていますが、常に冷蔵庫に多めに食品をストックし、古い物から消費するようにして行けば、冷蔵庫の食品で3〜4日はしのげるでしょう。その上で数日分の保存食を用意しておけば良いのです。保存食も試食をし、気に入ったものをストックされると良いでしょう。また、大人1人につき、1日3Lの飲料水が必要と言われています。

 

・非常時の連絡方法について家族であらかじめ話し合い、決めておく。
一般的にはショートメッセージなどでいち早く、回線が混み合う前に簡潔に安否を伝えるようにすると良いでしょう。家や家族の状況が確認できていれば、無理をして帰宅困難に陥るという状況は避けられます。

 

・集合住宅の場合、トイレは使用可能の確認が取れるまで水を流さないようにしましょう。消臭機能のついた簡易トイレ(洋式トイレにかぶせて使える)が市販されていますので、用意しておくと良いでしょう。ペット用のシートも役に立ちます。使用後は一般ごみと一緒に捨てず、自治体の指示に従いましょう。

 

・オフィス家具や機器の固定も忘れてはなりません。
揺れが激しいとコピー機がフロアを走り、大変危険です。キャビネットの上に隙間ができないようにしましょう。またオフィスのデスクも隣同士のデスクの脚を結束用ベルトなどで固定するなどしておくと安定します。

 

【共助】
・日頃から近所付き合いを大切にする。
日頃から積極的に挨拶をし、地域のお祭りなど行事に参加されると良いでしょう。お隣や同じフロアにどんな方がお住まいか知っておくと、いざという時に地域のお年寄りや障害者の避難に協力したり、地域の方々と消火活動を行う時に役立ちます。

 

・地域の防災訓練などに参加する。
コミュニティによっては、安否確認の方法、広域避難場所への移動経路、災害時の役割分担などが詳細に検討されているところもあります。

 

災害から身を守るために知っておくべきことはまだまだあります。是非機会がありましたら、ご自身の災害に対する備えを見直しておかれることをお勧めします。

 

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青山久子

東京出身。日本で4年制大学(中国文学専攻)卒業後、北京の大学に2年間留学(国際経済専攻)、帰国後フリーランス通訳・翻訳者として活動。万博通訳コンパニオン、気象会社の気象・海象予測担当を経て現在会議通訳・放送通訳、企業向け中国語講習などに従事。気象予報士、防災士。

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:22 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第24回 : 片山英明先生(英語通訳)
評価:
高山英士
Linkage Club
¥ 2,138
(2007-07-20)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、片山英明先生ご紹介のALL IN ONE』(高山英士著、Linkage Club、2007年)です。

 

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ビジネスでよく使われる「I would appreciate it if you could・・・」という表現は文法的には丁寧な言い方をあらわす仮定法です。他にも、英文の意味は理解できるのですが、どうしてここに動詞の原形が使われているのか、また過去形でなく現在完了形が使われているのかなど、細かいところまできちんと理解しないでそのまま訳していることも多々あるのではないでしょうか。英文を正しく理解し、よりわかりやすい訳出しをするためにはやはり文法の知識が必要です。とはいっても今から分厚い文法書に挑戦はちょっと・・・と思われている方も多いのではないですか。そんな方にご紹介したいのがこの一冊、高山英士先生の「ALL IN ONE」です。ボリュームも手ごろで中身も充実しています。

 

基本5文型から始まり、時制、分詞構文、関係代名詞、仮定法など基本的な文法がそれぞれの項目についてわかりやすく説明されています。また、現在分詞と過去分詞、it 構文、助動詞、倒置、省略など別の切り口からの文法的解説もあります。それぞれの説明には例文が用意されており、その用法の実際の使い方まで示されていますので、文法規則の理解がしやすいです。

 

文法書としてお薦めなのですが、実はこの本、題名の「オールインワン」に示される通り文法以外のいろいろなこともカバーされていますので、総合的な英語力アップにはうってつけです。

 

まず、例文に出てくる単語の説明が充実しています。辞書の最初に出てくる意味だけでなく細かいニュアンスまで説明があり、なるほどそういう意味で使われていたのかとそれぞれの単語に対し理解が深まり、語彙力のアップに大いに役立つことでしょう。

 

一つの例文は3行程度の長さで音声もついていますので、ディクテーション、シャドウイング、リプロダクション、リテンションの練習にもピッタリです。文法の規則を理解し、出てきた単語を自分のものにし、内容を理解したうえで何回も繰り返し練習することで完全に自分のものになるではないでしょうか。

 

章末には「Column」もあります。勉強の仕方から、発音や聞き取りのコツ、英英辞典の使い方まで幅広いアドバイスが載っています。

 

この本は、一度読んで理解するというより、何度も何度も読み直して、何度も何度も復習して自分のものにしていってみてください。何度読み直してもその都度新しい発見があると思います。

 

総合的な英語力アップにお薦めの一冊です。

 

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片山 英明(かたやま ひであき)

大学卒業後、30余年エンジニアとして海外の建設工事を行う会社に勤務。業務遂行に必要な英語力習得のためアイ・エス・エス・インスティテュート横浜校通訳科に在籍。その後、フリーランスの通訳として、主に技術、建設関係の分野で活躍。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 10:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第23回 : 宮坂聖一先生(英語翻訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語翻訳者養成コース講師、宮坂聖一先生ご紹介の『論理哲学論考』(Tractatus Logico-Philosophicus)(ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン著、Chiron Academic Press)です。

 

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僕は本当に偶然に偶然が重なって翻訳者になったので、参考書とか翻訳者になるための本とかほとんど読まなかったんです。会社員時代に仕事でマニュアルとかプロポーザルを英訳したこと、あるいは契約書のチェックをしていたことといった実務経験を通じて得たことがほとんどで、これを頼りに業界に無理矢理押し入ったみたいなものです。まだ電子辞書もろくになかった時代ですから、タイミングにも恵まれたと言えそうです。逆に結構いい加減に覚えていたことも多かったので、いまさら気付いたり、得心がいったりすることも数知れず。でもそこが楽しい。偉くなってはいかんのです。

 

かくして机の回りは、いまだに買っては積んでおくばかりの参考書やら専門書やらで一杯。先日買ったのは河野一郎、「誤訳をしないための翻訳英和辞典+22のテクニック」(DHC)とか、伊藤和夫「予備校の英語」(研究社)とか。まだ読んでないけど。授業をやっていて思うのは、最近はすぐに役立つこととか、テクニックとかを教わりたいという人が増えてきたということ。僕なんかは、昔から翻訳の考え方とか姿勢とかを中心に教えてきたので、正直時代が変わったなあと思わないでもありません。大切なのはやっぱり基礎。昔、ニフティの翻訳フォーラム(もう石器時代みたいな話ですが)での合言葉は、「ペーパーバック50冊読んで、原稿用紙250枚訳してこい。話はそれからだ」だったような気がするんだけど。こういうのはもう古いんだろうなあ。どうも野球で言えば走り込みや素振りの部分がおろそかになっているんじゃないかと心配になるんですよね。

 

ちょっと待てい、お前こそ実践ばかりで、基礎やってないじゃないかとここでツッコミが入りそうですが、今日書こうと思ってるのは、僕にとってのその基礎の部分が何かという話。例えば、僕の友人の文芸翻訳者には、契約書の翻訳を勉強することで文法を徹底的にマスターしたという人がいます。あるいは写経といって、人の訳文をひたすら写して写して写しまくることで腕を磨いた人もいます。で、僕の場合、これは30代にまだプロとしての翻訳を始めたばかりの頃のことなんですが、とある本の勉強会やりました。それがヴィトゲンシュタインの「論理哲学論考」(Tractatus Logico-Philosophicus)。これは7つのパートに分かれているんですが、これを母校の学生さんたちと夏休みにひたすら講読したわけです。これがまあ分からない。分からないことしか分からないというくらい分からない。分からないから、結局、言葉一つ一つの意味に戻るしかないんですね。

 

たとえば、本文の冒頭は、

 

1 The world is everything that is the case.

 

1.1 The world is the totality of facts, not of things.

 

こんな感じ。で、これを理解するために、英英辞典とかを使って、とにかく一語一語の意味に立ち戻って理解しようとするわけです。言葉を再定義すると言っても良い。それまでいい加減に使ってきた言葉を一つ一つ、よーく考えて自分なりに理解していく。それしかこれを理解する方法がないと思ったわけです。fact という言葉にしても、フランス語の fait、あるいはラテン語の factum といった言葉の由来から考えていく。こういうのを夏休みに狭い部室で4時間やってたりしました。恐ろしいことに4時間やって1語しか分からない。でもこの経験が今を作ったといっても言い過ぎじゃないと思うんですね。ということで、僕がお勧めはしないけど、でも読んでみて欲しい本はこれです。濫読・積ん読もいいですが、たまには一冊の本と徹底して向き合ってみたらどうでしょう。
 

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宮坂 聖一(みやさか せいいち)

株式会社ハマーン・テクノロジー代表取締役。コンピュータマニュアル、A/V機器などのテクニカルなものから、政治経済、映画台本、歌詞対訳まで、硬軟問わず幅広く手がける。アイ・エス・エス・インスティテュートでは、英語翻訳者養成コース、総合翻訳科「実践実務科」クラスを担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 10:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第22回 : 蘇馨先生(中国語通訳)

 

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、中国語通訳者養成コース講師、蘇馨先生ご紹介のもものかんづめ』『さるのこしかけ』『たいのおかしら(さくらももこ著、集英社文庫2001年、2002年、2003年)です。

 

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中学生の時だったでしょうか、ニュース番組で流れていた首脳会談で、VIPの後ろで淡々とメモをとりながら訳している通訳者の姿を見て、通訳という職業に強い憧れを感じました。それ以来英語を猛勉強して、目標に向かって突き進みました。しかし、運命のイタズラとでも言うべきでしょうか。なぜか十何年後に日本語の通訳者になってしまいました。当たらずとも遠からずというところでしょうか。

 

ご存知のように通訳者に一番求められるのは語学力です。語学勉強において多くの人に共通するのが「化石化」です。つまりある程度通じるレベルに達するとそれ以上伸びなくなり、上達が止まってしまう現象です。10年ほど前に私も一度激しく「化石化」したことがあります。その時に出会ったのがさくらももこさんのエッセイでした。

 

下らないことも恥ずかしいことも笑えるエピソードに変えて、読んでいるとニヤニヤしたり、急に笑い出したりしてしまうほど面白かったです。村上も太宰もそっちのけでももこ一色の読書生活になりました。日本語をやっていてよかった、このエッセイを中国語に訳してみたい、日本人より日本語がうまいと言われたいという欲まで出てきました。その欲こそが「化石化」から脱出する原動力になったわけです。そしてエッセイに出てきた「トコちゃんベルト」のおかげで、出産で開いた骨盤が完璧に元に戻りました。いいことずくめです。まさに一瞬早すぎず、一瞬遅すぎない時に出会った本でした。

 

エッセイは語学勉強において潤滑油のような役割を果たしているのではないかと思います。孔子や荘子など難しい中国語を知っているのにもかかわらず、「包帯を巻く」の「巻く」を「绑」と訳すべきなのか、「系」と訳すべきなのか、それとも「缠」と訳すべきなのかで悩む日本人の生徒さんはかなりいます。堅苦しくなく日常生活の自然な表現はエッセイでたくさん学べます。中国語で書かれているエッセイもいろいろあるのですが、「化石化」した方にお勧めしたい一冊は汪曾祺先生「五味」です。中国料理の歴史と食文化をユーモラスに描き、北から南まで自分も一緒に旅をしているような気分になれます。語学勉強もかねて行ったつもりで中国。もちろん空腹時はキケンですよ。

 

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蘇 馨(そ しん)
横浜国立大学教育学部卒業。アイ・エス・エス・インスティテュートで翻訳、通訳訓練を受ける。その後、フリーランスの通訳、翻訳者に。証券会社などの企業研修講師。現在中国語通訳者養成コース通訳科1を担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第21回 : 和田泰治先生(英語通訳)

 

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先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、和田泰治先生ご紹介の『ビートルズ詩集(1)(2)』(ジョン・レノン、ポール・マッカートニー著、片岡義男訳、角川文庫、1973年)です。

 

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私が洋楽を聴き始めたのは中学校に入学してからなので1973年ということになる。ビートルズが解散したのが1970年で、それから3年が経過していたが、音楽の中心はまだビートルズだった。10歳年上の兄が友人からビートルズのシングル盤(当時のOdeonレーベル盤)をたくさん借りてきていて家のボロボロのオーディオで毎日聴いたり、レコードに合わせて歌ったりしていた。

 

当時は中学一年生で英語もろくにわからなかった。"Please Please Me"は「お願い、お願い」だとずっと思っていた。「それにしても何でMeがついてんだ。自分にお願いしてんのか!?」と不思議だった。「抱きしめたい」を聴いた時には "I can't hide" が「アゲハ」にしか聞こえなかった。何で日本語で歌ってるんだと真剣に思っていた。(因みにボブ・ディランは同じフレーズをずっと "I get high"だと思っていたらしい)。

 

その程度ではあったけれども、間違いなく、生まれて初めて教科書以外の生の英語に触れたのはビートルズだった。この原体験がなければ自分と英語との関係は今とは全く違ったものになっていただろう。

 

しばらくして学校のビートルズマニアの友人から中古のLPレコードを500円で譲ってもらった。「ステレオ!これがビートルズVol.1」というデビューアルバムの日本独自編集盤だったが、生まれて初めて自分の小遣いで手に入れたビートルズのアルバムだった。今のようにオンラインで簡単に動画が見られる時代ではなく、LPレコードも高価で、お年玉を貯めて一年に一枚か二枚しか買えない時代だった。


その年のクリスマスにデパートで輸入盤のバーゲンセールをやっていて、ここで母がビートルズのベスト赤盤、青盤を両方買ってくれた時は飛び上がるほど嬉しかった。それぞれ二枚組みで、ビートルズの全樂曲のうちのごく一部ではあるけれどデビューから中期、解散期までの代表曲を一気に聴くことができた。

 

この時初めてビートルズの後期の歌を聴いたのだが衝撃的だったのは歌詞である。それまで初期のストレートなラブソングばかりを聴ていたのに、ビートルズ後期のベスト盤である青盤の1曲目がいきなり"Strawberry Fields Forever"だった。

 

それ以外にも "I Am The Walrus" とか "Lucy In The Sky With Diamonds"など、前期のビートルズとは全く違う歌の世界に心の底から驚き、ビートルズの凄さにさらにのめり込んだ。そしてそれに合わせて英語の歌詞への興味もこれまで以上に膨らんだ。ビートルズの歌詞の世界をもっと極めたいと思った。

 

そんな時、件のビートルズマニアの友人が「ビートルズファンだったらこれは絶対買わなきゃだめだ!」と言って教えてくれたのが、その年に刊行された片岡義男氏の翻訳による「ビートルズ詩集」だった。楽曲のタイトル自体も翻訳されていて、これまではっきり意味のわからなかった歌詞も理解できるよになり本当に勉強になった。

 

今あらためて読み返してみても訳者の独りよがりなレトリックなどが無く、ジョン・レノンやポール・マッカートニーの詩の世界をストレートに伝えてくれる好著だと思う。

 

この本を読んでからまたあらためて原語に戻って歌を聴き、意味を理解しながらレコードに合わせて英語を声に出して歌ってみたり、自分ならこんな風に翻訳しようなどと思いを巡らせたりしたこともある。

 

中学生の時にビートルズに傾注したことが自分の英語の礎になっているのは間違いないと思う。そして何よりそんな多感な時代に言葉を知る楽しさを教えてくれたのがビートルズだった。

 

「ビートルズ詩集」には今もそんな若かりし自分自身が宿っている。

 

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和田 泰治(わだ やすじ)
明治大学文学部卒業後、旅行会社、マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。
 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 10:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第20回 : 近藤はる香先生(中国語通訳)

 

ライブラリー画像近藤先生.PNG

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、中国語通訳者養成コース講師、近藤はる香先生ご紹介の『新樹の言葉』(太宰治著、『ろまん灯籠』角川書店、1955年初版)です。

 

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「君たちは、幸福だ。大勝利だ。そうして、もっと、もっと仕合せになれる。私は大きく腕組みして、それでも、やはりぶるぶる震えながら、こっそり力こぶいれていたのである。」

 

中学の時、夢中になって読んだ本に『モンテクリスト伯』(岩波文庫)があります。『巌窟王』とも呼ばれる作品です。非現実的な展開と超人的な主人公の能力に、思春期の私はどこか冷ややかで、可愛げのない読者でしたが、そんな私が「夢中になって読んだ」理由は、主人公の監獄での超人的な執着と結末の虚しさでした。


驚く方もいるかもしれませんが、実は私は「競争」が非常に苦手で、甲乙をつけられるのも、甲乙をつけるのも大嫌い、恐怖さえ感じます。しかし高校受験を控えたあの頃は、そんなきれいごとも言っていられず、「『競争心』が欲しい」、「せめて『○○高校に絶対受かりたい』という気持ちが欲しい」と悩み、『モンテクリスト伯』を読みながら、「すばらしい!恨みでも復讐心でも何でもいいから、死に物狂いになれる原動力が欲しい」と思ったものでした。そして、最後まで読み進めて襲われた空虚感。もやもやとしつつも、「不純な動機で得たものは、ただ空しいだけ」とスッキリしたのを覚えています。


冒頭に掲げたのは『モンテクリスト伯』の一節ではありません。太宰治の短編『新樹の言葉』の結びの言葉です。没落した良家の若い兄妹二人が、元々自分たちの住んでいた屋敷が火事で燃えるのを「二階にも火が回ったね」などと淡々と話しながら眺めているのを見て、主人公が心の中で叫んだ言葉です。恨みや妬みだけではなく、感傷さえもない兄妹。まさに無欲そのもの。そして、無欲だからこそ仕合せそうでした。この短編を読み、二人に憧れ、「何かを得ることが幸せなのではない。欲を捨てることが幸せなのだ」と、それ以来「こだわると生きづらい」を座右の銘に、欲を捨てる修練を人生としています。


幸い平和で豊かな時代に生まれ、復讐や恨みに苛まれることは少なく、「所有欲」や「競争心」という、扱いようによっては「向上心」に繋がるものが今の世の中の大多数の人の「欲」でしょう。しかし、私はそれも捨てたいと思っています。


きれいごとを言うようですが、学業も通訳・翻訳の仕事も、いい評価がほしい、もっとうまくなりたい、認められたい…などと思って取り組んだことはありません。気持ちと体がいつの間にか自然とそちらに向いていたから、ただ流れに乗ってやってきただけです。勿論「認められたい」「負けたくない」という気持ちが一切起こらなかったわけではありませんが、全く持続しませんでした。また、そういう気持ちで取り組むと結果も非常に悪く、意識して振り払うようにしていたのも事実です。


「通訳は黒子」です。ビジネスや文化交流、外交など非常に重要な場面で、要となる仕事をするにも関わらず、私たち通訳は永遠にその主体とはなりえません。自己顕示欲や競争心は絶対にタブーです。「黒子」――「無欲」になることが通訳としての私の追求です。


人間「欲」があるのが自然で、恐らくそれをうまくコントロールできれば問題ないのだと思います。自信ややる気に繋がるならば、「自己顕示欲」や「競争心」も否定はできません。ただ『新樹の言葉』を読んだ時の、あのスカッとした気持ち、天から光が差したような感覚は「無欲」も一つの力、何かを成し遂げるのに道は一つではないと教えてくれるような気がします。学業、仕事、人生において「無欲」になろうとすることが、私の力になっています。

 

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近藤 はる香(こんどう はるか)

横浜市立大学国際文化学部卒業。10年の中国留学を経て、帰国後フリーランス通訳者、翻訳者として稼働中。アイ・エス・エス・インスティテュートでは中国語通訳者養成コース基礎科1を担当。

 

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| ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 | 09:00 |
ISSライブラリー 〜講師が贈る今月の一冊〜 第19回 : 寺田容子先生(英語通訳)

 

先生方のおすすめする本が集まったISSライブラリー
プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、「人生のターニングポイントとなった本」「通訳者・翻訳者として必要な知識を身につけるために一度は読んでほしい本」「癒しや気分転換になる本」「通訳・翻訳・語学力強化のために役立つ参考書」等を、エピソードを交えてご紹介いただきます。

今月の一冊は、英語通訳者養成コース講師、寺田容子先生ご紹介の楽しく学べる「知財」入門』(稲穂健市著、講談社現代新書、 2017年)です。

 

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私は小説やフィクションにあまり興味がありません。世間で面白いといわれる文学があると、そんなに言うならと手に取ることがありますが、冒頭ですぐに退屈してやめてしまいます。あるいは直ちに最終章へ飛びます。

 

フィクションでも映画やドラマなら好き。では、単なる活字嫌いかというと、そうでもなく、実用書の類はよく読みますし、楽しんでいます。

 

ご紹介する稲穂健市さんの「楽しく学べる『知財』入門」もそうした実用書の1つです。知的財産権に含まれる著作権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などについて、東京五輪エンブレム騒動など話題の事案をふんだんに盛り込みながら、素人にも分かりやすく説明しています。

 

本来、専門性が極めて高い知財という難解なテーマですが、ユーモアに富んだリズムよい文章に冒頭から吸い込まれ、飽きる暇がないうちに最後まで読み終えると、自然と知財の正しい概念や5つの権利の違いなどを理解することができます。

 

通訳と何の関係があるんだと言われそうですが、大いに関係しています。

 

通訳の諸先輩方からよく指摘されるのが、幅広い教養を身につける必要性です。通訳がカバーする分野は幅広いため博学な人が優れた通訳になり、優れた通訳はさらに博学になっていくのを目前で見てきました。フリーランスで仕事をしていると“現場にいる自分以外全員専門家”という状況が多かれ少なかれあります。私の関わっている放送通訳という分野でも、オーディエンスはお茶の間の視聴者ですが、現場のスタッフはその道のオールスター。(わが身可愛さで詳細は伏せますが)付け焼刃の知識しかないために地雷原で無様に這い回る経験をしたことがあります。

 

そこで、自分の知らない分野を深く勉強したいと思った時に叩く最初の扉として、こうした入門書が便利だと思っています。

 

稲穂さんの知財本はいずれもそうなのですが、堅いテーマにするっと入っていける工夫を感じます。英会話のAEONとスーパーのAEONは両立するのか、「どこでもドア」の商標登録がドラえもん関係でない理由、マツモトキヨシは全国の松本清さんから承諾を取ったのか等々、親しみのある題材を愉快に取り上げながら、知的財産権の世界を明確に理解する実用的な知識を与えてくれます。残念ながらこの本だけで弁理士にはなれませんが、世の中の知財、模倣、パクリ問題に、少し違う角度からの関心を持てるかもしれません。

 

最近、実家で荷物を整理していた時に、その昔のISSの成績表を発見しました。一番下にある先生の一言は「日本語を豊かにするために本を読んでください」。

 

全くおっしゃる通りで笑えます。放送通訳をしていると時々出くわす“詩を朗読しだす人”
や“シェークスピアをそらんじる人”を何よりも恐れる、文学芸術音痴の今の私の姿を、先生は20年近く前にすでにお見通し。それでは、ということで、私の枕元には某ノーベル文学賞候補の作品が、課題図書として積まれています。私は文学がダメなのではない、せっかちで最後まで読まないだけなのだと信じ、来年のノーベル賞シーズンまでには何とか制覇して、いよいよ文学センスを開眼させたいです。

 

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寺田 容子(てらた ようこ)
東京外国語大学卒業。アイ・エス・エス・インスティテュート放送通訳科で学び、2001年より放送通訳者として稼働を始める。現在は、NHK、CNN、BBC、その他各テレビ局にて、報道全般、記者会見、スポーツ、米大統領選挙報道など、多岐にわたるテレビ放送の同時通訳および時差通訳を中心に活躍中。

 

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