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ISS講師が語る「私を支える○△□」 第16回 柴原早苗先生の「私のデビュー戦」


昨年からスタートした、連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただいています。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

第16回目は、英語通訳者養成コース講師、柴原早苗先生の「私のデビュー戦」です。

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通訳学校で順当に進級していった私は、同時通訳科で初めて大きな壁にぶつかりました。褒められると伸びるタイプを自認する私にとって、体育会系のそのクラスは毎回緊張の連続だったのです。怖さのあまり力を発揮できない状態が続きました。けれどもこれは単なる言い訳です。厳しかろうと優しかろうと、商品価値のある通訳を行うことは、プロとして不可欠なのは内心わかっていました。

けれども一刻も早く通訳者になりたいという思いは私の中で強烈にありました。当時はまだインターネットなどない時代です。来る日も来る日もジャパンタイムズと朝日新聞の求人欄を眺め、「通訳」「英語」「人材派遣」と名の付く会社に片端から履歴書を送りました。その数はおそらく100社ぐらいだったと思います。東京だけでなく地方の会社、海外の企業にも送りました。

書類選考を運よく突破しても、トライアル試験で不合格ということもありました。合格しても面接での感触が良くなかったこともあります。せっかく登録に至ったもののスケジュールが合わず、初回の業務依頼を断ってしまい、以来音沙汰なしというケースもありました。

さすがに最初に不合格通知が届いた時は落ち込みました。あれだけ勉強をしてきて、これほど熱意はあるのになぜ不採用なのか。自分の力不足や縁のなさを嘆いたこともあります。けれども2社、3社と採用見送りが続くにつれて、「あ、ここもダメだったのね。では次の応募先を探そう!」と慣れていきました。ご縁がないなら別を探す。それをひたすら続けたのです。

そのような過程を経て仕事も少しずつ舞い込むようになりました。そのころからずっと心がけていることがあります。それは目の前の仕事を丁寧に集中して行うという点です。今でも失敗することはもちろんあります。けれども大切なのはなぜそうなったのか、再発防止をどうすべきかを考えることなのです。

自分のミスを直視することは痛みを伴います。その苦しさに向き合うことで初めて、デビュー戦を突破し、通訳者として仕事の幅を広げていけると私は信じています。


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柴原 早苗(しばはら さなえ)
放送通訳者、獨協大学非常勤講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSE にて修士号取得。ロンドンのBBC ワールド勤務を経て現在はCNNj、CBS イブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。NHK「ニュースで英会話」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。ESAC 英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。著書に「通訳の仕事始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)。

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| 私を支える○△□ | 12:00 |
ISS講師が語る「私を支える○△□」 第15回 曽根和子先生の「こだわりの逸品」


昨年からスタートした、連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただいています。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

第15回目は、英語通訳者養成コース講師、曽根和子先生の「こだわりの逸品」です。

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今、「通訳者」として稼働して、何とか安定した状態になりましたが、通訳者になって特に感じているのは、「英語を聴く」のは、実に疲れる作業だなあ、という事です。というのは、ー分にとって外国語である英語が流れてくる 何が話されるかわからないので集中して聞かなければならない 1儻譴馬辰気譴襪ら、当然、全部理解できない時がある(最悪の場合、理解できるところがほとんどない) い修鵑幣態でも、日本語に訳出しなければならない。この 銑い侶り返しなのです。通訳現場では、私は、常にこのフラストレーションに直面し、心の葛藤が続いています。もちろん日本語→英語も苦しい時は多いのですが、英語を聴く作業によって生じる疲労感は特に大きく、回復に時間がかかります。

そんな私の気分転換になっているのが、マンガです。私は、学生時代からマンガが好きでしたが、通訳者になってから特に面白いと感じて読んでいるのが、英語のマンガです。

ただ、英語のマンガといっても、『スヌーピー』、『Spiderman』、『Batman』といったアメリカン・コミックではありません。そういったものは、英語圏での文化的、社会的、歴史的な背景知識が必要で、それがないと読んでいても楽しめません。例えば、ユーモアたっぷりの表現を英語で読んでも、その英語のユーモアのセンスがなければ「意味不明」ですし、そのユーモアを理解する為に、他の資料を調べなければならないという手間があっては、全く楽しめません。

私が読んでいるのは日本のマンガの英語版です。マンガの基本は、まず「絵」で楽しむ事です。「絵」で楽しむ事の何が良い点なのかと言うと、耳を使わなくていいという事です。通訳作業では、常にリスニングのため聴覚を使い続けるので、「絵」でリラックスする事が気分転換になります。加えて、日本のマンガの英語版の良い点は、ストーリーがわかっている事、そして、日常の何気ない会話がどういう英語に訳されているかが分かる事です。

私は、日本の学校で英語を勉強した後に就職し、30歳を過ぎてからオーストラリアの大学院に留学して初めて英語圏での生活を経験したので、毎日の暮らしで普通に使われる英語、日常生活のための英語表現が圧倒的に不足しています。英語は、私にとっては、あくまで、学校で勉強した「外国語」なのです。しかし、英語版のマンガを読むと、日本人が会話の中でごく普通に使っている表現が英語に訳出されているので、「なるほど」と納得する事も多く、楽しめます。

そしてマンガの良い点は、登場人物の表情やその場の雰囲気を、絵で見て理解できるという事、つまり、どういうシチュエーションでそういう発言があるのか、また、その人物がどういう感情でその言葉を言っているか、などを「視覚的に理解できる」という事です。ですから、仕事が終わって気分転換にマンガを読むのですが、色々な場面での日→英の表現に触れられて、結構、勉強にもなっています。

私が気に入って読んでいるのが、『ドラえもん』と『サザエさん』の英語版です。どちらもごく普通の日常会話がベースになったお話で、内容が複雑でも専門的でもなく、誰でも楽しめる作品です。私はバイリンガル版を読んでいます。バイリンガル版というのは、マンガの吹き出しの中に英語、コマの外に日本語が書いてあり、日本語と英語の表現を、その場ですぐ比べる事ができます。日常会話ですから、難しい単語や複雑な構文は使われていません。辞書も必要ありません。

例えば、『ドラえもん』に「あんまりいい加減なこと、言うなよ!」「あきらめのいいとこが僕の長所なんだ…」といった表現が出てきます。私にとっては、政治、経済、経営、産業等の話題を通訳する事より、こういう表現を即座に訳出する事の方が難しいのです。

ちなみに「あんまりいい加減なこと、言うなよ!」は、
Make sure you’re not saying something you can’t back up.

「あきらめのいいとこが僕の長所なんだ…」は、
My strength is knowing when to quit.

となっています。

というわけで、日本のマンガの英語版にちょっと興味を持った方、1冊ぐらい読んでみてはいかがでしょうか?


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<曽根和子先生プロフィール>
慶応義塾大学文学部卒業。神奈川県の英語教諭を経て、オーストラリア・クィーンズランド大学大学院にて英日通訳・翻訳の修士号を取得。帰国後フリーの通訳者となり、現在、NHK衛星放送の放送通訳、会議通訳者として活躍中。アイ・エス・エス・インスティテュートでは主に上級クラスの指導に当たるとともに、複数の大学でも通訳・翻訳の講座を担当。

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| 私を支える○△□ | 19:00 |
ISS講師が語る「私を支える○△□」 第14回 和田泰治先生の「こだわりの逸品」

昨年からスタートした、連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただいています。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

第14回目は、英語通訳者養成コース講師、和田泰治先生の「こだわりの逸品」です。

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実力に自信が無い者ほど道具に頼るというのは世の常でございましょう。ゴルフしかり、釣りしかり…通訳業を生業とする小生も、人に見劣る能力を何とか取り繕おうと必死に様々な小道具に腐心してまいりましたが、その最たる物が電子辞書でしょう。

古いものを引っ張り出して数えてみたところ、通訳者として仕事をするようになったこの20年間に9台の電子辞書を購入致しました。ぼぼ2、3年に一度のサイクルで買い換えてきたわけですが、本稿ではその経緯を振り返ってみたいと思います。


<ソニー データディスクマンDD-75(1996年頃購入)>
1_DD75.jpg
1996年頃に初めて買った電子辞書です。CD-ROMを挿入して収録されたコンテンツを利用する方式で、研究社の英和中辞典、和英中辞典及び広辞苑が収録されていました。通訳を始めたのが1995年ですので、その翌年くらいに購入したようです。ハードウェア自体が結構大きいうえにリスポンスもあまり良くなく、CD-ROMにアクセスするたびに「カシャカシャ」と音がするので実際に携帯して外で使うにはあまり向いていませんでした。

とはいえ、紙の辞書からデジタルへという画期的な転機を象徴するデバイスでした。


<セイコーインスツルTR-7700(1998年頃購入)>
2_TR7700.jpg
ようやく手に入れた、本格的に携帯できる小型版の電子辞書として非常に重宝したのがこのモデルです。今あらためて見てみるとディスプレイはかなり小さいですが、電子辞書の使い勝手の良さを体感できる逸品だったと思います。但し、収録コンテンツが中辞典だけだったため、紙のリーダース英和辞典との併用を余儀なくされておりました。


<セイコーインスツルICD-RE1(1998年頃購入)>
3_ICD RE1.jpg
…ということで、発売と共にすぐに手を出したのが、このリーダーズ専用の電子辞書。これもセイコーインスツル製ですが、「研究社」のロゴがついています。収録コンテンツはリーダース英和辞典だけなのにもかかわらず、確か5万円近くしたと記憶しております。相当に高価なものでした。当時は上記のTR-7700とこのモデルを2台持ちで鞄に入れて持ち歩いていたわけです。
 

<セイコーインスツルSR-9100(2000年頃購入)>
4_SR9100.jpg
中辞典とリーダーズが両方収録されたものがようやく市場に出回り出し、すぐにこのモデルを購入しました。これを契機に紙の辞書はほとんど利用しなくなりました。


<セイコーインスツルSR-T6500(2002年頃購入)>
5_SR T6500.jpg
さらにリーダーズプラスがコンテンツに追加されたモデルです。ハードウェアの改善点としてキーパッドのタッチが非常に軽く、快適になりました。本機は現在もプライベート用として使用しています。


<セイコーインスツルSR-E10000(2005年頃購入)>
6_SR E10000.jpg
新たに和英大辞典が収録され、さらに「ブリタニカ百科辞典」も収録されているということでつい買ってしまったのがこちらです。百科事典は、「これだけでも数十万円の価値がある」とか何とかという触れ込みで、購入した当初は広告に煽られたかなぁとも思いましたが、実はこの百科事典のコンテンツが予想以上に仕事で役に立つことがわかりました。ハード面ではディスプレイにバックライトが搭載されています。電源が充電池と乾電池両方利用できる仕様になっています。シルカカードでコンテンツを追加できるようにもなりました。


<セイコーインスツルSR-G10001(2010年頃購入)>
7_SR G10001.jpg
上記のモデルが突然故障し、長期の修理期間に入った時に思案して購入したのがこのモデルです。英語関連のコンテンツ量は相当なもので、自分にとっては少々オーバースペックかとも思いました。英語に関する収録コンテンツはこのあたりでほぼ飽和状態に達した感があります。ハード面でもディスプレイの改良やパソコンとの連携など、メーカーもいろいろと差別化に苦労しているなぁというのが実感できる力作です。
 

<セイコーインスツルSR-G7001M(2012年頃購入)>
8_SR S7001M.jpg
そして現在常用しているのがこの製品です。クリスマスのプレゼントに家内に買ってもらいました。スーツのポケットに入るほどの小型ながら、英和、和英の両大辞典(英和大辞典はジーニアス)とリーダーズ英和辞典、英英辞典とシソーラス、ブリタニカ百科事典という最低限仕事で必要なコンテンツは収録されています。これにシルカカードで「180万語対訳大辞典」を追加して現在毎日使っておりますが、フォームファクターとコンテンツのバランスという点からして、これまでで最も実用的な電子辞書だと思います。


<セイコーインスツルDF-X10001(2015年購入)>
9_DF X10001.jpg
セイコーインスツル社が電子辞書の市場から撤退する間際に発売した乾坤一擲とも言えるモデルがこのDF-X10001です。収録コンテンツについては、リーダーズが最新の第三版に改訂されており、英和、和英の大辞典や、英英辞典やシソーラスの類も主要なものはすべて収録されています。さらにセンテンスディクショナリーや平凡社の世界大百科事典などの膨大なコンテンツも入っている一方で、数合わせのような無駄なものは一切収録しておらず、コンテンツについては文句のつけようがありません。如何せん、アンドロイドOSを搭載してインターネットのブラウジングを可能にしたり、ディスプレイにカラー液晶を採用したりしたためか、「起動が遅い」、「大きい」、「重い」、「バッテリーの消耗が異常に早い」など欠点も指摘されていますが、良かれ悪しかれ、まさにこれを最後に市場を去ったセイコーインスツル社が持てる力の限りを振り絞って残した偉大なる集大成とも言える電子辞書だと思います。上記のコンパクトなSR-G7001Mと状況に応じて併用しています。
 

<結び>
この約二十年間、電子辞書には本当にお世話になってきましたが、セイコーインスツル社は残念なことに電子辞書のビジネスから撤退してしまいました。収録コンテンツが行き着くところまでいってしまったということもあると思いますが、スマートフォンやタブレットの普及によるところが大きいのではないでしょうか。特に難しい言葉でなければ一般のユーザーは無料のオンライン辞書で十分でしょうし、我々通訳者の中にも辞書は携帯せず、Googleの検索エンジンをそのまま辞書替わりに使っている方々もいます。調べたい言葉を入力して検索すれば、専門用語などの場合は辞書では遥かに及ばない最新の情報を得ることもできるからです。まさに時代の波というものでしょうか。

三十数年前の学生時代、「君たちねぇ、英文科の学生だったらランダムハウスの大辞典くらい持っていないと恥ずかしいよ」と教授に言われ、生協で大枚をはたいて買ってからこのかた自宅でオブジェと化している巨大な紙製の大辞典を眺めながら、あらためて時の流れに思いを馳せている次第でございます。


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<和田泰治先生プロフィール>
明治大学文学部卒業後、旅行会社、マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。アイ・エス・エス・インスティテュートでは主に基礎科レベルを担当。

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| 私を支える○△□ | 20:53 |
ISS講師が語る「私を支える○△□」 第13回 岩木貴子先生の「私のデビュー戦」

昨年からスタートした、連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただいています。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

第13回目は、英語翻訳者養成コース講師、岩木貴子先生の「私のデビュー戦」です。

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もともと出版翻訳家を目指して留学したのですが、帰国後いざ翻訳家になろうと思っても、どうやってなれるものなのか皆目見当がつかないことにはたと気づきました。そこで、「成績優秀者は翻訳家デビュー」とうたっていたある通信講座を受講しました。

しかし、半年間の講座で思い知らされたのは自分の力のなさ。4年間の留学生活でほとんど日本語を使っていなかったのがたたり、日本語が不自由になってしまっていたのです。ぼんやりと、「こういうことを意味する言い回しがあったはずだ」と言葉の輪郭の記憶は残っているのですが、記憶をたぐってもどうしても言葉が見つからず、はたして翻訳家になれる日は来るのだろうかと不安でした。

とはいえ、ただ不安に思っていてもしょうがないので、そこは行動あるのみ。今度は英訳講座や実務翻訳の講座を受講しました。英訳講座を受講中にニュース翻訳や和書のシノプシス英訳などの依頼を学校から受けるようになりました。また、出版翻訳の英訳オーディションに合格したのと同時に同じ会社から別の和書の英訳を依頼されました。

フリーランスはそういうものらしいのですが、不思議と仕事の依頼は重なるもので、英訳とほぼ同時期に、今度は和訳のお話が舞い込んできました。こちらは、当時参加していた読書会で知り合った方に紹介いただいたエージェントの方からリーディングの依頼を受けるようになっていたのですが、その関係でお引き受けしました。また、こちらもほとんど時を同じくして、読書会を主催していた会社から小説の和訳のお仕事をいただきました。

ですので、英訳も和訳も初仕事は二冊同時進行でした。当時はもうがむしゃらで、お声がかかるとお引き受けしていたのですが、さすがにこれはいけないと反省しました。あまりにフル回転だと翻訳の質が落ち、周囲にも迷惑をかけてしまいますし、結局自分の首を絞めるだけなのです。最初のうちは依頼を断るのには勇気がいりますが、無理をしてはいけないということはこの時肝に銘じました。

実務翻訳のほうは、最初のうちはトライアルに応募してもまるでなしのつぶてでした。ゆるい条件でも「実務経験3年以上」という案件がほとんどで、実績がない人はそもそも応募すらできないのです。「実績実績って、じゃあどこで実績を積めばいいの?」ともどかしい思いでした。実績を問わないという初心者向けの案件に勇んで応募しても、書類選考で引っ掛かりすらしないこともありました。何しろ未経験で武器がないのですから、ひとつでも使えるものを増やそうとTOEICを受けてみました。すると、TOEIC受験後、前と違って翻訳会社の反応が明らかによくなりました。そのうちに一社、二社と登録していただけるようになり、細々とではありましたが実務翻訳のお仕事もお引き受けするようになりました。

翻訳のお仕事はデビューしてからも先が長く、一生勉強だと思っていますが、とはいえ、デビューするまでの道のりが何と言っても一番大変だと思います。先が見えてこなくて、どこまで行っても同じところを堂々巡りしているだけのように思えて、「こんなことしていても果たして翻訳家になれるんだろうか」とネガティブな考えにとらわれてしまいます。でも、そういうものなのだと思っていれば少し気が楽になるのではないでしょうか。「そうすんなりとなれるものじゃない、好きなことを仕事にするのだから、それなりの苦労があって当然だ」、と織り込み済みのことにしてしまうのです。

そういう時期が何か月、何年続くかわからないので、めげないために、自分を客観視することが大切です。若干色付けして。同じところをぐるぐる回っているわけじゃない、ちゃんと前進しているのだとわかるように、客観的なデータを記録しておくのです。そうするとまるっきり停滞しているわけではないとわかります。ささいなことでも構いません。たとえば、同じC判定でもコメントが以前よりもちょっとはよいかな、などと、自分の成長を確認することが必要です。

また、五里霧中の状況で自分を見失わないために、人生で最終的に自分はどこにたどりつきたいのか、そのために経ていく段階は何なのか、道程をすべて書き出しておくとよいと思います。そうすれば、少しずつでも目標に近づいていることがわかるからです。ただ漠然と勉強するのではなく、「何年後までにこうなっていたいので、今はこの段階」という風にはっきりとした道筋を作っておくと、先が見えない時期でも切り抜けられます。目標のためには何が必要なのかをしっかりと把握して、逆算して、今の自分ができること、するべきことを決めておけば、暗闇でさまよっている気がしても、明確なゴールに向かって前進しているんだ、と思えます。歩いて行けばいつかは目的地に到達することを信じて、一歩一歩進んでいってください。


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岩木貴子(いわき たかこ)
フリーランス翻訳者として出版、実務分野で活躍中(英→日、日→英)。アイ・エス・エス・インスティテュートでは、英語翻訳者養成コース、総合翻訳科・本科レベルを担当。

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| 私を支える○△□ | 19:00 |
ISS講師が語る「私を支える○△□」 第12回 榊原奈津子先生の「私のデビュー戦」


昨年からスタートした、連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただいています。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

第12回目は、英語通訳者養成コース講師、榊原奈津子先生の「私のデビュー戦」です。

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もう20年以上前の話で、他の事は記憶が曖昧になる中、この通訳のデビュー戦となった日の事は鮮明に覚えています。

当時見本市通訳を月に1〜3本こなす生活を1〜2年続けていましたが、ある日いつものように幕張メッセの国際会議場での見本市で仕事をしていた時、ブースの関係者の日本人の方から、「今から会議をする事になったから、あなた来てやってくれない?」と言われたのです。

大規模な見本市だったので、私の所属していたエージェントの社長も視察に来ていて、たまたま私のブースにいらっしゃる時にそういう話になったので、私は思わず社長に「私、会議なんて出来ません!そんな約束じゃなかったじゃないですか。無理です、絶対に無理です!」とすがるように言ったのですが、「でもあなたしか居ません。お願いだからやってもらえませんか?」と逆に説得されてしまったのです。

「ウソでしょ?!」と内心思いながら、無理やり隣接する会議室に連れていかれると、そこには既に5〜6人のアメリカ人が通訳者らしき日本人女性と一緒に、会議室のあちら側に座って待っていらっしゃる状態…。こちらに座っている2〜3人の日本人側について日英の通訳をやらされるのだと分かった時には、スピーカーらしき日本人がもう話を始めようとしている所でした。

私は「ちょっと待って下さい!ノートを出すのでちょっとだけ待ってください!」と叫んで、大慌てでカバンから通訳ノートを取り出しましたが、1文目はノートを取る暇もなく始まってしまいました。だいたいあちらのアメリカ人の方々とこちらの日本人側はどういう関係?どちらがどちらを招いたの?どちらが地位的に上なの?等々全く知らされていない状態で、スピーカーの方のバックグラウンドもステータスも、ましてやスピーチの内容も何もかも分からない状態でのスタートでした。背中には氷を浴びせ掛けられたような感覚が走り、(こんなの出来るわけない、何で突然こんな事に…)、そんな思いが頭の中を駆け巡り、とてもじゃないけど通訳に集中出来る状態ではありませんでした。

その上、アメリカ人側の通訳者の方は、スピーカーが話していない事まで、説明を交えて通訳されていて、明らかにこのグループと既に数日は行動を共にしていらっしゃる事が分かり、2人の通訳者のレベルがあまりに違いすぎる!とかなり焦りました。


30分位の会議だったでしょうか?終わった時にはもうぐったりでした。その後にティーパーティがあり、日本側の方何人かから、急だったのに良くやってくれたと感謝されましたが、アメリカ人付きの通訳者の方から、「素晴らしい英語でしたね」と言われた時には、「ウソ、この方イヤミ言ってる!」と思ったものでした。素晴らしいはず、無いじゃないですか、状況も分からず引き受けてやった通訳が、良い出来のはずが無いじゃないですか。


でも結論から言うと、何となく出来てしまったんです。同席していたエージェントの社長も、とても良くやったと褒めて下さいました。私は普段から英日より日英の方が得意で、聞こえさえすればとにかく何とか訳せると思っていましたので、ベストな訳ではなかったでしょうがスピーカーの意図を伝える事はある程度出来たと思いました。「あ〜、会議ってこんな感じなんだ…。事前に情報がもっと頂ければ、多分クライアントが満足するレベルの通訳が出来たに違いないわ…」と感じました。

これをきっかけに、エージェントから小さな会議の仕事が来るようになり、1〜2年後には大きな会場で国歌が流れるような重要な会議まで担当するようになりました。あの経験がなければ、会議通訳に突入するのは、あと2〜3年遅れていたかも知れません。

現在会議通訳へのステップアップを狙っている現役通訳者の方も、私みたいに騙されて(!?)最初の一歩を踏み出す事が出来れば、意外とラッキーなのかも知れませんね!


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榊原奈津子(さかきばら なつこ)
上智大学外国語学部英語学科卒。上智大学大学院にて言語学専攻英語教授法(TESOL)修士号を取得。外資系航空会社勤務を経てアイ・エス・エス・インスティテュートで通訳訓練を受ける。フリーランスの通訳者として航空をはじめ多分野で活躍する傍ら、20年以上にわたり同校の講師を務めている(主に入門科レベル担当)。上智大学他、大学の講師も務める。

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| 私を支える○△□ | 11:00 |
ISS講師が語る「私を支える○△□」 第11回 徳久圭先生の「こだわりの逸品」


昨年からスタートした、連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただいています。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

第11回目は、中国語通訳者養成コース講師、徳久圭先生の「こだわりの逸品」です。

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通訳の現場は毎回緊張の連続。しかもそれが、一緒にチームを組んで仕事をする「パートナー」のいる現場であればなおさらです。まだまだ駆け出しの私にとって、現場でご一緒するパートナーはいずれもこの業界の大先輩ばかりだからです。先輩通訳者のパフォーマンスに聞き惚れ、圧倒され、我が身を振り返って打ちのめされることがほとんどですが、訳出そのもの以外にも、先輩方が使っている道具に興味を惹かれることが多く、とても参考になります。

例えば同時通訳のブースで使用するヘッドホンやイヤホン。同時通訳者が会場備えつけのものをそのまま使うことは少なく、みなさんそれぞれの「マイヘッドホン」や「マイイヤホン」を持参されることが多いようです。一瞬の油断もできない訳出作業においては、やはり普段から使い慣れ、耳に馴染んでいる私物の方が、よけいなストレスを感じずにすみ、それだけ作業に集中できるということでしょうか。

私はというと、普段の語学学習にも使用している比較的安価で小ぶりなヘッドホンを持ち込んでいたのですが、ある時先輩通訳者から、ご自身が長年愛用されているというこのイヤホンを紹介されました。デンマークの「バング&オルフセン(Bang & Olufsen)」というメーカーの「A8」という製品です。



先輩いわく「音の粒立ちが違う」。正直に申し上げて、このイヤホンはかなり懐が痛んでしまう最高級品ですが、それで少しでもスピーカー(発言者)の声がクリアに聞こえ、訳出の精度向上に資するのであれば、それに見合う投資ではないかと先輩はおっしゃるのです。弘法も筆を選ぶのですね。私はその「プロ意識」、「プロ根性」に驚き、「聞こえるなら何でもいいでしょ」などと思っていた自分を反省したのでした。

というわけで、私も先輩に倣ってすぐに購入しました。音の違いもさることながら、耳に掛けるタイプのこのイヤホンは、音が聞こえてくる部分の位置を自由に調整することができます。縦のシリンダー部分が伸縮することに加えて、シリンダーから伸びた「腕」の部分が回転することで、耳に密着させることもできれば、耳から少し離す(浮かせる)こともできるのです。

この「耳から少し離すこともできる」というのが重要です。音楽を聴くのであればそんな使い方はしないと思いますが、同時通訳の場合はスピーカーの発言を聞きながら自分の訳出する声もモニターしているので、片方のヘッドホンを少しずらしたり、イヤホンをゆるく装着したりすることが多いからです。このイヤホンは細かい部分の作りがとてもしっかりしていて、そのような使い方を簡単に、そしてとてもスマートに実現できます。もちろんメーカーは、そんな使い方をされるとは想像もしていなかったでしょうけど。

もちろん最高級のイヤホンを使ったからといって、訳出のできばえも最高級になる保証はありません。これからも道具におぼれず、精進を重ねたいと思います。


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徳久圭(とくひさ けい)
武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。NPO職員や出版社での編集者、語学講師、社内通訳者等を経て、現在フリーランスの通訳者・翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート講師。

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| 私を支える○△□ | 18:00 |
ISS講師が語る「私を支える○△□」 第10回 西山より子先生の「座右の銘」

 

 


昨年からスタートした、連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただいています。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

第10回目は、英語翻訳者養成コース講師、西山より子先生の「座右の銘」です。

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「通訳はスナイパー」

私はかつて、ロシア語とフランス語を中心に多言語の翻訳や通訳派遣を行っている翻訳会社に勤めていました。そこではマイナー言語の1つである英語のコーディネータとして採用されたのです。

私以外の社員は皆、ロシア語かフランス語が専門でした。なぜこの2言語の組み合わせなのか。それは、サハリン生まれ、サハリン育ちでロシア語を母語とし、類稀なる言語能力により大学留学時にフランス語をマスターし、ロシア語・フランス語・日本語の3カ国語間の翻訳通訳をこなしていた人物が会長だったからです。

私が入社した頃には、第一線をほぼ退き、翻訳の品質チェックや後輩・部下指導を行いつつも自家菜園にのめり込んでいて、しかも英語は彼の門外漢ということで、残念ながら接点はさほど多くありませんでした。それでも、ときどき優しい声をかけてくださったり、私が会社を続けるか、会社を辞めて独立するかの岐路に立たされていたときなどにはランチに連れ出して、参考になるいろんな話をしてくださったり、私の翻訳通訳人生の中で影響を受けた敬愛してやまない恩師の1人です。


そんな彼の言としてロシア語担当の同僚が教えてくれたのが「通訳はスナイパー」という言葉です。これは、むしろ翻訳の方により当てはまるのかもしれません。

伝えるべき内容が標的だとすれば、その周辺を連打し続けているだけでは目的は果たせず、プロならば一発で中央を打ち抜かなければならない、というのがその心です。

たとえば、循環型社会を推進するためのキーワードとなっている3R。この1つ目のRはReduceです。3R活動の話の中でReduceとかReductionという言葉が出てきたらこれは(廃棄物の)「抑制」とか「発生抑制」と訳すべきで、減少、削減、低減、あるいは「排出するごみを減らす」などの説明はいずれも、当たらずとも遠からずではあるけれど、ピンポイントではないわけです。

単語単位はもちろんのこと、句、節、メッセージレベルでも同じことが言えます。アイ・エス・エス・インスティテュートの先生にもよく「誰でも言葉を尽くせばなんとか伝えることはできる。が、プロである限り、言葉はエコノマイズすべき」と注意されてきましたが、まさしくそれを一言で言い得たのが「スナイパー」ではないでしょうか。


今私が書いているこの文章からも、いかに私の作文が冗長で的を射ないことが見透かされてしまっていると思います。そんな私ですからとりわけ、翻訳で良い表現が浮かばないとき、そして通訳をするときにはいつも、映画「スターリングラード」のジュード・ロウを思い浮かべて「私はスナイパー」と自分に言い聞かせながら取り組んでいます。


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西山より子(にしやま よりこ)
上智大学外国語学部英語学科卒業。総合電機メーカーにて海外営業職を務めた後、経済産業省外郭団体の地球観測衛星運用チームにて派遣社員として社内翻訳通訳に従事。翻訳会社でコーディネーターを経験した後、フリーランスとして独立。主に、国際協力分野の日英翻訳、その他産業技術系実務翻訳、地球観測衛星、自動車分野の通訳を手がける。

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| 私を支える○△□ | 10:00 |
ISS講師が語る「私を支える○△□」 第9回 芳賀まき先生の「私のデビュー戦」


2014年7月からスタートした、新連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただきます。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

第9回目は、英語通訳者養成コース講師、芳賀まき先生の「私のデビュー戦(初仕事)」です。

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アイ・エス・エスでの訓練期間中の後半から、翻訳やOJTなど少しずつ仕事をするようになりました。

その頃の仕事は今から思い返すと、どれもが初仕事だったように感じますが、そのなかでも特に印象に残り、自分の「初仕事」と位置付けているのが、同時通訳科在籍時に先生からご紹介頂いた映画音響機器のセミナーの通訳です。

最初にこのお話しをいただいたとき、「是非やってみたい!」と思うと同時に、大変悩みました。というのも、お話しがあったのが出産の予定日の2週間ほど前で、実際の稼働日が産後2か月というタイミングだったのです。(仕事だけでなく出産も「初」でした)決断できず、お電話を頂いたT先生に「少し考えさせてください」と申し上げたところ「いいわよ、連絡ください」と仰ってくださいました。電話を切り、早速悩み始めて10分ほどたったころ再び電話が鳴りました。T先生でした。「ああ、あなたに決まったから」と言われ、大変びっくりしました。私がなかなか決められないだろうことを見越して決めてくださった先生のご英断に感服しました。そして、このことは今でも心に残り、先生に感謝しています。人生・仕事における大切なことを教えていただきました。

お話しが決まり、資料が届いたのは入院の2日ほど前。その分厚い、機器のマニュアルを病院に持ち込み、退院後は夜中の授乳の合間などに「これは一体何をする装置なんだ??」と思い続けながら、自分なりに想像しながら、とにかく単語を拾い、準備を進めました。音響を担う機器という点で、バンドでキーボードを担当しシンセサイザーをいじっていた経験があったために、あまり抵抗を感じなかったのは幸いでした。本番の10日ほど前にクライアントの担当者の方がブリーフィングの時間をしっかり設けてくださり、大変有難かったです。

本番当日。会場には多くの映写技師の方々と設置業者の方々が集まり、とても緊張しました。幸い、発表者のイギリス人の方とアメリカ人の方がとても親切でしたし、またクライアント企業で翻訳をいつもされている女性がサポートとして隣に座ってくださることになりました。セミナーの後半で内容が準備の範囲を超えてしまったときは、この方に助けて頂きながらも何とか仕事を終え、感謝の言葉を頂くことができました。

その後、このお仕事がきっかけとなって、同じお客様から引き続きお仕事を頂くようになり、十年余になります。来日の際の得意先訪問同行、技術セミナー、新技術の発表会、業界懇談会など色々な場を経験させて頂き本当に幸運だったと思っています。長くやっていると業界の言葉も背景もよくわかるようになり、そうなるとお客様に安心して頂けるようになり、続けて使ってくださるのです。


久しぶりに振り返ってみると、この初仕事はお仕事を紹介してくださった先生方、親切なお客様、家族、と多くの支えがあったから成り立ったのであり、出産前後の武勇伝でもなんでもなく、大切なのは感謝すべきことと改めて気が付きます。そして、それを常に自覚していれば、自然と仕事に対する緊張感の源になり「やらねば」と思うことができるのです。

どのような職業にも言えることでしょうが、フリーの通訳者のように、培った技能を活かし、特有の研鑽がずっと続く世界においては、このような「自分を突き動かす何か」を持っていることは重要なことの一つだと思います。それは、仕事や色々なことを抱えながらも通訳学校に入って勉強を続けていらっしゃる皆さんにとっても同じではありませんか?

突き動かしてくれるものは宝です。山ほどある言い訳に、その宝が埋もれてしまってはもったいない。

がんばりましょう。


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芳賀まき(はが まき)
17歳までのうちの約8年間をアメリカ・ペルーなどで過ごす。成蹊大学卒業後、日本の金融機関に就職したのちスイス系の信 託銀行に転職。会社の夏季休暇を利用してアイ・エス・エスの通訳入門講座に参加したことをきっかけに、同年の秋学期よりアイ・エス・エスで通訳訓練を開 始。同時通訳科在籍の頃よりOJTや社内通訳など、少しずつ仕事を始め、現在フリーランス。金融・エネルギー・映画・IT・通信など。

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| 私を支える○△□ | 10:00 |
ISS講師が語る「私を支える○△□」 第8回 片山英明先生の「座右の銘」

 

 


2014年7月からスタートした、新連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただきます。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

第8回目は、英語通訳者養成コース講師、片山英明先生の「座右の銘」です。

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「初心に帰れ」

サラリーマン時代は建設業という仕事柄だったかもしれませんが、いつも納期に追われていた記憶があります。完成期日が迫って来ているのに予定通りに仕事が進まず、何から手をつけていいのかと思い悩むこともしばしばでした。

そんな時、先輩からかけられた言葉がこの「初心に帰れ」です。今やるべきことは何なのか、原点に戻って考えてみると、ある意味覚悟も決まり、少し元気になってまた新たな気持ちで取り組めたものです


通訳の勉強も同じではないかと思います。アイ・エス・エスで勉強している時に「自分はここにいていいのだろうか?」「これからどうなるのだろうか?」など不安と迷いに襲われることもありました。そんな時、思い出したのがこの「初心に帰れ!」です。勉強を始めてみようと思ったあの時、学校に入ったあの時の気持ちを思い浮かべ、気を取り直したものです。

通訳コースでは、クラスが進むにつれ教材の量も増え、難易度も高くなっていきます。毎週の準備にも時間がかかります。果たして自分は進歩しているのだろうか、自分の勉強方法で大丈夫だろうか、いろいろ迷ってしまうこともあるのではないでしょうか。勉強方法は確かに人それぞれでしょうが、英語力は結局費やした時間によるものだと思います。こつこつとした地道な努力に勝るものはありません。あきらめないこと、never give up で続けていくことではないでしょうか

そうはいっても続けていくのがこれまた大変です。くじけそうになったり、落ち込むこともあるでしょう。モチベーションが下がり、くよくよ考えてますますネガティブになる時もあるかもしれません。そんな時こそ「初心に帰れ」です。通訳になるぞと決めたあの時、勉強を始めてみようと思ったあの時のことをもう一度思い出すことです。意外と吹っ切れて、よしもう一度頑張ってみようと言う気になるものです。

忙しいから、もう歳だからとか言い訳は捜し出せばきりがありません。いろいろな事情で今まで通りの時間が取れないこともあるかもしれません。その場合は少しペースダウンもいいのではないですか?でも続けること、1日15分でもOK。続けておくことです。英語の力は勉強に費やした時間の合計、「今までの努力は決して無駄にはなっていないはず、地道な努力の勝るものはない」と信じることです。

初心に帰ってあきらめずに粘ってみましょう。


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片山英明(かたやま ひであき)
大学卒業後、30余年エンジニアとして海外の建設工事を行う会社に勤務。業務遂行に必要な英語力習得のためISS横浜校通訳科に在籍。その後、フリーラン スの通訳として、主に技術、建設関係の通訳。また2006年からアイ・エス・エス・インスティテュート横浜校の通訳者養成コース、主に入門科や通訳訓練を 応用した英語力強化クラスの講師を担当。

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| 私を支える○△□ | 12:00 |
ISS講師が語る「私を支える○△□」 第7回 青山久子先生の「こだわりの逸品」


今月で第7回めとなる、人気連載「ISS講師が語る『私を支える○△□』」

プロの通訳者・翻訳者として活躍されているISS講師に、自らの“通訳者・翻訳者人生”(少し大げさですが…)を振り返りながら、現在の自分を支えている「言葉」や「モノ」、「出来事」について語っていただきます。

○「言葉」=座右の銘、
△「モノ」=こだわりの逸品、
□「出来事」=私のデビュー戦(初仕事)

ISS講師がこの3つからテーマを選んで語る本シリーズ。

今年初となる第7回目は、中国語通訳者養成コース講師、青山久子先生の「こだわりの逸品」です。

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単語データベースは手書き派、PC派など人それぞれですが、その一例として FileMaker(WindowsとiOS)を使用した自己流管理法をご紹介致します。


1_FM_DB.jpg
■図1 FileMakerの単語データベース例(Windows環境)

データベースは分野別にしています。これは以前 Linux と Windows で動く Portabase というデータベースソフトを使用しており、1ファイルあたりのデータ件数に上限があった時の名残です。

このデータベースでは、1つのレコードのフィールドを5個定義しており、それぞれ日本語、中国語、日本語ふりがな、中国語ふりがな(ピンインという中国式ローマ字)、使用の有無識別のためのフィールドとなっています(使用の有無識別のフィールドはチェックボックス等を使ったほうがスマートですが、検索動作が重くなったためテキストフィールドに変えました)。

ふりがなを入れておくとソートに役立ちますし、検索する際に文字変換を介さないため速く検索することができます。

通訳業務の準備の際にデータベースにデータを追加します。その際にはまとまった量を入力するのでExcelが便利です。データの構成はFileMakerにインポートする事を前提としています。


2_xls.jpg
■図2  Excel上のデータ入力例(Windows環境)

Excelには単語の日本語と中国語のみ入力し(A,B列)、ふりがなは列のデータを別のソフトでまとめて変換して貼り付けます。日本語は『Kanji2na』(フリーウエア)でひらがなに変換し、中国語は『J北京』(有料)で「声調なしピンイン」に変換後『テキスト削り2』(フリーウエア)で半角のスペースを削除した上でExcelのC,D列に貼ります。E列は今回の業務で使用する単語であれば「1」と入力します。使用しない単語であればE列には何も入力しません。出来上がったExcelファイルをFileMakerのデータにインポートすればデータの追加は完了です。

印刷して現場に持参する単語リストにはふりがなは必要ありませんので、日本語と中国語のフィールドのみを表示したレイアウトを作成しておき、使用の有無識別用フィールドに「1」が入っているレコードを抽出し印刷します。印刷する場合は、現場での書き込み用に余白を多めにとっておくと便利です。

3_FM_Print.jpg
■図3  FileMaker印刷用レイアウト例(Windows環境)


FileMaker のデータは全て Dropbox というクラウドに置き、Dropbox 経由でiPadに取り込み、検索に使用します。iPad からデータを追加する事も可能です。

 4_iPad.jpg
■図4  iPad に取り込んだFileMakerファイル(iOS環境)


現場では、新出単語や頻繁に使う単語があればその都度印刷したリストの余白に書き込みます。

5_iPad_FM.jpg
■図5  通訳ブース内での使用状況(右下は iPad 上に FileMakerGo で表示したデータベース)

使用した紙の単語リストは忘れずに持ち帰り、手書きで書き込んだ新出単語を後日データベースに入力します。なお、他の通訳者に単語データを渡す場合はExcelに変換して渡します。


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青山久子(あおやま ひさこ)
東京出身。日本で4年制大学(中国文学専攻)卒業後、北京の大学に2年間留学(国際経済専攻)、帰国後フリーラ ンス通訳・翻訳者として活動。万博通訳コンパニオン、気象会社の気象・海象予測担当を経て現在会議通訳・放送通訳、企業向け中国語講習などに従事。気象予 報士、防災士。

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